アジア系転売屋組織vs日本メーカー、ブランドを毀損する不正出品の実態

2018/09/28

不正出品

インターネットによる買い物、Eコマース(EC)の普及により、転売屋やフェイク品製造業者による不正出品や不正転売が増え続けています。

それに伴って、トクチョーにはメーカーやECプラットフォーマー、ECストア出店者、弁護士などからの相談が寄せられており、対象品の出品状況に関するインターネット調査から、不正業者の流通拠点や転売目的の大量購入現場の調査など、バーチャルとリアルの両面から調査を行っています。

今回は、大量不正転売を行うアジア系転売屋組織の実態を紹介しましょう。 


百貨店で爆買いした男たちを尾行してたどりついた倉庫

都内の主要駅から徒歩十数分、マンションが立ち並ぶ通り沿いにある100坪を超える敷地に、プレハブ倉庫があります。トクチョーの調査員たちは、百貨店で“爆買い”された高級消費財を満載した軽自動車を尾行し、その倉庫にたどり着きました。

倉庫には、2月上旬の春節(東アジア諸国における旧正月)時期を除いて、年中無休で断続的に人や車、荷物が出入りしていました。

この倉庫こそが、アジア系外国人転売屋組織Aグループの物流拠点でした。

トクチョーが初めてAグループを調査したのは、全国の百貨店や代理店を中心に出店する高級消費財メーカーB社から、「不自然な爆買いをしている客について調べてほしい」という依頼があった際でした。


同じ客が日を置かず高額商品ばかり買っていく

「不自然な爆買い」とは、同じ客が日を置かずに何度も来店、売れ筋の高額商品のみを、数十個入りの箱ごと何箱も買うなどの大量購入をしているというのです。
旅行客ではなく組織的な転売屋だとすると、B社にとって好ましくないルート、価格で国内外の消費者へ商品が流通してしまうことになります。

B社の営業・マーケティング部門トップのC本部長は、次のように事情を話してくれました。

C本部長 「当社の商品は選び抜かれた原材料で、製造は全て日本国内、しかも店頭販売が基本で通信販売は自社公式サイトでしか行っていません。インバウンド需要の影響はかなり大きく、ここ数年は爆買いがなければ計画達成は難しいくらいなのですが、爆買いする客が転売屋だとすると絶対に見過ごせません」

トクチョー 「最近は『せどり(転売)ビジネス』が個人の副業としてはやっていることもあり、需要が安定していて繰り返し購入されることが多く、しかも高額である御社の商品は格好の転売対象かもしれません。不正な転売を阻止したいという理由はなんでしょうか」

C本部長 「『ブランド価値を守る』という1点に尽きます。当社の直営店、正規代理店の対面販売は、店内の雰囲気だけでなく、丁寧なカウンセリングによる商品の手渡しなどが、『特別な場所でしか買えない』という希少価値にもなってブランドを形成してきました。そのため販売チャネルの拡大は、海外も含めてとても慎重に検討しています」

トクチョー 「そういった意味で、御社の公式サイト以外でインターネット販売はしない、させないという方針ということですね」

C本部長 「インターネット検索から他社の商品と十把一絡げに画面に表示され、価格順で並べられたりすれば、当社のブランド価値は薄れ、その他大勢に埋没しかねません。競合他社のケースでは、代理店が大手ショッピングモールサイトからインターネット販売に移行した途端、定価より安い価格で売られたり、海賊版が売られるようになったりしました。そのせいで、最もロイヤルティーの高い層の顧客が離れていったという話も聞いています」

トクチョー 「ご相談いただく案件の中には、転売先として海外に商品が流れていることを懸念されているケースもあるようです」

C本部長 「まさに、当社でもそれを問題視しています。今後本格的に進出していく予定の重要市場であるアジア諸国で、正規チャネルではないところからネット通販されている事実は、ブランドの価値を大きく毀損してしまいます」


店舗の定点観測と購入者の尾行調査を実施

不正転売の調査では、転売されている商品の仕入れ先、「買い子」と呼ばれている転売商品の購入者、転売業者の拠点、代表者、法人登記、転売方法、転売先などを調べるとともに、転売されている商品の試買などを行います。そこで、今回は以下の調査を行うことになりました。

(1)百貨店に出店しているB社直営店舗に対する定点観測調査(数日間ずつ順番に実施)
(2)来店して爆買いしていくアジア系の人物の尾行調査
(3)B社商品の転売先に関するインターネット調査

調査は初日から成果を上げることができました。

開店間もなく、アジア系の男性が来店し、最も高い商品と売れ筋商品の2種類をそれぞれ数十個、大きな紙袋四つに入れて購入していきます。ここで、店舗の観測担当と、購入客の尾行担当に分かれて調査を継続しました。店舗の観測では、さらに5人のアジア系の爆買い客を確認しました。合計6人の爆買い客のうち、4人が全く同じ行動を取りました。

まず、会計は全て商品券で精算します。百貨店で使える商品券は、金券ショップなどで額面より0.5~1%程度安く買えるからでしょう。百貨店独自の海外旅行客優待のクーポンを提示し、さらに値引きを受けます。百貨店ではインバウンド需要喚起のために、海外旅行客向けに5%程度の割引クーポンを発行しているからです。最後に百貨店の免税手続きカウンターで消費税の還付を受けます。事務手数料を差し引いた消費税の還付で、購入代金の約7%が戻ります。

これらを合計すると、定価より約12%も安く購入していたことになります。
1回で数十万円の爆買いをするため、10%を超える差額は大きなインパクトです。


倉庫に納めて1万円札数枚をもらう買い子を2週間で20人以上確認

そして、購入客4人はそれぞれタクシーに乗ったり、仲間が運転する古びた軽自動車に乗ったりして、冒頭のプレハブ倉庫に商品を運び入れたのでした。

別の3店舗でも同じように爆買い客が現れ、追跡すると何人かはやはり例の倉庫に商品を運んでいきました。こうした行動を見るにつけ、B社の店舗を訪れた爆買い客の一部は、転売屋の買い子であるとみて間違いなさそうです。

約2週間の調査で20人以上の買い子が確認できました。皆、スマホを使いこなし、日を変え、店舗を変えて爆買いを繰り返しては倉庫に納め、その場で責任者と思われる男性から1万円札数枚を渡されていました。どうやら日雇いのような関係であると思われます。

倉庫の登記は株式会社A。代表者の氏名はアジア系の男と思われるものでした。登記上の事業目的は、「インターネット通信販売」「商品の輸出入」「WEBサイトの企画制作、運営代行」などと記載されています。

日中、倉庫の扉は大きく開け放たれていて、中にはB社の競合企業のロゴが入った段ボール箱が何十箱も積み上げられているのを確認できました。転売している商品は、B社のものだけではないようです。

追加調査で、Aグループの倉庫を観察してみると、郵便局の集荷も毎日、数十個以上行われていて、EMS(国際スピード郵便)の発送伝票が確認されたことから中国を中心に輸出されていることも判明しました。しかも宛先の住所は全て異なっています。つまり、転売先は特定の組織や店舗ではなく、中国の個人消費者に対する販売であることを意味します。

この後、仕入れの現場と物流拠点で入手した情報も使い、B社商品の転売状況をインターネットで調査しました。国内のECサイトでは、転売されている様子がなかったため、中国の主要なECサイトにも広げて調査をすることになりました。

ここで、中国のECサイトについて、日本製品の転売という観点から少し触れておきます。

中国発の世界的なビジネスECプラットフォームである「アリババドットコム」を知っている方は多いと思いますが、同じアリババグループが運営する中国最大のCtoCショッピングモール「淘宝网」(タオバオワン、Taobao.com、通称「タオバオ」)やBtoCショッピングモール「天猫」(ティエンマオ、Tmall.com)を知っている方は少ないのではないでしょうか。

タオバオもティエンマオも年間取引額は数兆円規模といわれ、日本のAmazon、楽天、Yahoo!ショッピングの合計取引額と同等以上といわれる巨大なECモールです。
タオバオは、ユーザー数5億人、商品数は8億点を超えると公称していて、「Made in Japan」または「Buy in Japan」の商品も数多く取り扱われています。タオバオで検索してみると、日本からの輸入品を扱うECストアは数千店規模で存在しているようです。

高額商品だと日本のECストアではまず見かけないような写真が、商品ページに掲載されています。
それは、購入した日本の百貨店の外観、売り場から始まり、精算カウンターに置かれた商品と1万円札の束、百貨店の包装紙に包まれる様子、包装紙に貼られた百貨店の名前シール、百貨店独自の紙袋、最後は「領収書」と書かれたレシートなど、「Buy in Japan」を証明するための一連の写真です。

中国に限らず、アジア諸国では「Made in Japan」と表示はあるものの、実際はフェイク品・模造品が出回っています。そしてブランド品は、日本ブランドであれば「Made in China」であろうが「Made in Taiwan」であろうが、「日本で売られていた」ということが高品質の証しになることから、「Buy in Japan」が大きな意味を持つのです。


定価より1.5倍ほどの高い価格で販売、少なくとも年間数億円規模の被害か

話をAグループに戻しましょう。

トクチョーのIT調査員が、Aグループに関連する事項をキーワードとして、判明した事実から芋づる式に調査を進め、転売先を丹念に探していきます。結果、店名とデザインの違う10店舗以上ものECストアを運営して、B社商品を転売していることが分かりました。

中国語で書かれた店舗のブログには、都内にあるAグループの倉庫にある在庫の山や多数の買い子たちが「仕入れ担当者」として紹介されています。どのECストアでも、「日本で購入したものを直送している」という点を大々的にアピールしています。

Aグループでは、B社の商品を当時のレートで定価より1.5倍ほど高い価格で販売していました。
トクチョーの推計では、1年間ほとんど休みなく稼働する買い子と物流倉庫における仕入れの様子から、売り上げは低く見積もっても年間数億円規模になると見られます。

B社に調査内容を報告すると、C本部長は言いました。

「まさか倉庫まで借りて転売をビジネス化しているとは、想像もしていませんでした。当社の顧問弁護士を通じて、店舗運営会社とECモールの運営会社の双方に抗議をします。ただ、国外企業に対してどれだけの法的効力が発揮されるか分かりません。今後は、写真つきのブラックリストを用意して、Aグループの買い子に対しては販売しないように各店舗へ通達を出します。また直営店・代理店全店に、対面販売の徹底と1回の購入量制限のルール化をしようと思います」

その後、B社の依頼により直営店舗ではなく、正規販売代理店における調査を実施したところ、爆買い客に対する購入数量制限を無視して販売する店舗があったり、中にはAグループとは別のグループにB社商品を箱ごと送付していたりといった状況も判明しました。
B社は、そうした正規販売代理店とは代理店契約を打ち切っているとのことです。

現在では、一定数の不正転売は続いているものの、Aグループの各EC店舗からB社の商品は姿を消し、出品数は確実に減少していることが確認できています。



ジェトロ(日本貿易振興機構)による中国の越境ECに関する調査で、購入理由のトップ2は、1位が「中国国内では店頭で販売されていない商品だから」で45.6%、2位が「ニセモノではないから」で45.0%となっています(複数回答)。こうした日本製品ニーズの高まりを商魂たくましい中国大陸の商売人、そして犯罪組織が見逃すはずがないのです。

しかし、メーカーにとって、転売屋組織による不正・違法転売は、ブランド毀損や事故を起こす可能性もある重大事です。また、フェイク品の流通は自社商品の販売の機会損失となるだけでなく、EC上における信用を失う原因ともなります。

そこで、まずは自社商品が転売されていないか、またフェイク品が流通していないかどうかを把握する必要があります。

その際の注意点として、不正転売やフェイク品の製造・流通には外国人犯罪組織や反社会的勢力が関わっていることもあり、海外の販売サイトには悪意のあるプログラムが仕込まれているケースもあります。そのため、気軽にサイト検索してアクセスしたり、怪しい商品を試し買いするため、安易に住所を明かしたりするのは非常に危険です。流通やブランディング対策に専門性を持つ弁護士や調査会社に相談してみましょう。

調査から約1年後、別の顧客からAグループも含めた転売屋集団の動向を調べる案件が持ち込まれました。やはり、仕入れがしづらくなったB社商品はもう扱っていないようでしたが、相変わらず倉庫は終日フル回転していました。使い古された軽自動車はもう倉庫にはなく、大型のレクサスが2台並んでいたことに調査員は驚嘆せざるを得ませんでした。

(総合調査会社 トクチョー)

※この記事は事実を基にしていますが、登場する人物・団体・名称等は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。守秘義務のため、依頼者や調査対象者が特定できないように、事件の詳細は設定を変更しています。

※本記事は、トクチョーがダイヤモンド・オンラインに寄稿した「調査員は見た!不正の現場」シリーズの「アジア系転売屋組織vs日本メーカー、年間数億円の被害を出した手口」を改題・編集したものです。

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総合調査会社として、企業経営やビジネスでの意思決定に必要な、データベースからは得られない情報をお届けしています。

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また、労務管理にまつわる社員の調査、クレーマーや不審人物の素性調査等もお気軽にご相談ください。

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