10分でステップ理解!マーケティングリサーチの全手法【保存版】
2018/02/16
「お客様がどんな商品を求めているか、とりあえずアンケートをとってみよう!」。マーケティングリサーチといえば、アンケートのこと、と思っている人も少なくないのではないでしょうか。もちろん、マーケティングの専門家はそんなことはないでしょうが、大手企業でもない限り、社内にマーケティングのプロや専任者がいる例は少ないようです。マーケティングリサーチを適切に行うには、目的に合った手法を選ぶことがその第一歩です。限られた予算と機会を活かして有効な調査を行うためには、まずはこの機会に、マーケティングのステップと、目的応じたリサーチの手法・方法について、きちんと理解しておきましょう。
目次
マーケティングリサーチは文字通り、企業のマーケティング活動の様々な段階で、マーケティングの意思決定に用いる情報の、主要な収集手段として実施されます。その内容や手法は実施する企業やプロジェクト、また調査を提案・受託する企業ごとにじつに多くの、様々なバリエーションがあります。
リサーチの手法・方法は、もっぱら下の表のように主に「定量調査」(※1)と「定性調査」(※2)に大別されますが、それぞれに何通りもの手法や実施の手段が存在し、同じ名称の調査でも、その目的によって「定量調査」として行われる場合、「定性調査」として行われる場合があります。
また、市場や消費者の実態・意見を結果から読み取る「探索」目的のものや、先に一定の仮説を立ててその検証を行う「仮説検証」といった形で、目的によって区分されることもあります。
さらに近年ではインターネットやモバイルインターネットの普及・浸透につれてリサーチに使う手段や媒体等によって区分され、同じ名称でもどのようなデータを集めるかによって定性、定量のどちらにも区分することが出来る新しい手法も増えてきています。
ここでは、「そのような分類方法があること」「多種多様な調査手法がある」ということを、まず確認しましょう。
※2定性調査とは、一般に数値として現れにくい意見や行動について、聞き取りや観察を行う調査のことを言います。
<マーケティングリサーチの分類と主な手法・方法の例>
※3「サーベイ」は欧米での一般的呼称で日本では仏語起源の「アンケート」が一般的です。注)さらに、上記区分は一例であり、実際には各調査において、手段としてインターネットを利用するものを「インターネット調査」とする場合、単発のものを「アドホック調査」、継続的なものを「継続調査」とする場合などの例や、モバイル調査で定量的なアンケートや定性的なインタビューを行う場合など、手法、手段等での呼称・分類が混在しています。また大手の広告代理店に固有の名称やその一般名称などの呼称・分類が混在しています。
マーケティングリサーチの基本的な流れは以下の通りです。
まず企業のマーケティング活動から情報のニーズが発生し、必要な情報の定義や予算からの企画、実施、収集したデータの分析、報告を持ってマーケティングの次の段階へ進む、という手順となります。
自社に体制やノウハウ、資金などがある場合はマーケティングとそのためのリサーチの全てを自社で行う場合もありますが、リソースには事欠かない大手企業などでも、敢えて広告代理店等の外部の専門家を起用して、内外のノウハウを結集してマーケティングを進めていく事も少なくありません。
その場合、主に実施を中心とした、リサーチの一部のみを委ねる場合(下図①)から、広くマーケティング全体に力を借りる場合(下図②)など、外部の起用の範囲や依存度もまた、企業によってもプロジェクトによっても様々です。
しかし、いずれの場合にも、どのような目的でどのようなリサーチを実施し、それをどのように判断していくのかは、自社で理解しておく必要があります。
マーケティングの意思決定のための情報収集の用途で行われるマーケティングリサーチですが、日本ではマーケティングの取り組みそのものが広告・宣伝、販売面に偏る傾向が強く、実施は広告代理店やリサーチ会社を通じて行われる事が多いようです。
リサーチにパネル(パネラー)、モニターと呼ばれる回答者層を独自に持ち、ノウハウや企画力に富むこれらのリサーチ専門の会社を利用する傾向は、ネット社会になった今も続いています。
しかし発注する側の立場から、自社あるいは外注先とリサーチの目的を毎回的確に共有し、適切な提案、適切な手法と費用で実施できているでしょうか。
以下でマーケティングの主要な段階や、あるいは調査の目的に応じて、どのようなリサーチ手法がよく用いられているのかを理解しておきましょう。
マーケティング活動は、しばしば次の6つの主な段階に区分されます。そしてそれらの各段階ごとに、よく使われる分析の手法があり意思決定のための情報が必要となります。マーケティングリサーチはこの分析と、分析を行う情報の基礎となるデータの収集のために行われます。
目的に合ったマーケティングリサーチを、費用対効果を高めながら行うには、そのマーケティングリサーチがマーケティングのどの段階で、どのような分析を通じての、どのような意思決定のためのものかについての理解と認識が重要です。
<マーケティングの主要ステップと用いられるリサーチ手法の例>
企業環境分析の段階では、その名の通り、まず企業(自社)の置かれている環境(状況)を知ることが目的です。
自社が想定している商品・サービスやそれらを必要とする分野について、そのマーケットをある程度定義し、そのマーケットの現在の金額的な市場規模や消費者数やその購買動向、競合している、あるいは競合となりそうな企業や商品等とそのトレンドを分析します。市場に影響を与える要因などを広く分析します。
<行われる分析等>
●3C分析:
顧客 (Customer)、競合 (Competitor)、自社 (Company) の市場での位置 (ポジションや影響力、受け止め方などの) 関係を整理し分析します。既存の商品等での現在の位置関係、想定する商品等での将来の位置関係なども検討します。
●SWOT分析:
自社、あるいはいくつかの競合他社・商品について、それぞれの強み (Strength)、弱み (Weakness)、機会(Opportunity)、脅威 (Thread) を、各要素を掘り出して整理解析することで、現状を理解し、今後への示唆を得ます。
●TOWS分析:
SWOT分析で出てきた4つの要素を、さらに「強みを機会に活かすには」「強みで脅威に対抗するには」「機会を弱みで逃さないためには」などと発展させ、次のアクション、戦略につなげる方法を探ります。SWOTの段階で頭の中にある程度想定されるものを、より具体的に明示して検討します。
●PEST分析:
自社の事業や商品・サービスに影響を与える社会環境の変化を、わかりやすい切り口として政治 (Politics)、経済 (Economics)、社会 (Society)、技術 (Technics) の4つの面から整理します。そこに現れる要素はSWOTにも反映させることで、より深い理解と検討が可能になります。
●GCS分析:
対象としようとする顧客について、より具体的なイメージを持ち、競合比較などを容易にするために、ジャンル、カテゴリ、セグメントを想定/設定し、その範疇での実態把握や検証のための情報収集、分析を行います。
●業界構造分析:
いわゆる「5-FORCE」(ファイブフォース) や「バリューチェーン」と呼ばれる分析ツールなどを用いて、既存の類似商品等が実際にどのような素材等の調達を基に何処で (誰に) 作られ、どのような流通・販売ルートで消費者に届くのか、またそれを支える企業の体制などはどうなっているのかなど、モノとしての流れや、付加価値の発生過程などについて分析します。
<必要な情報>
想定される消費者層や顧客層の統計数や購買動向、想定する市場での競争や事業の構造、競合企業概要やそれぞれのポジション、市場に影響を与える政策や技術等の動向などの情報が必要となります。
<用いられるリサーチの手法>
一般的には広く市場調査、想定する市場にいる他社やその商品等について調べる競合調査、それを既に存在している情報を中心に収集するデスク (トップ) リサーチ、新たに消費者などに意見を聞くアンケート調査などを行います。
必要に応じて強みや弱みの要素を収集する為に、自社内の物的・人的・知財・技術などのリソースの有無、方向性や考え方の癖、マインドなどのインタビュー調査なども行います。
ある程度市場環境について理解ができたら、実際にどのような商品・サービスで行くべきか、あるいは既存の商品等であればその改良・展開の方法について、コンセプトの開発を進めることになります。
新たな商品・サービスの開発や既存のものの改良のため、市場環境分析を基に、ニーズやシーズを確認し、そこにアイデアを加えることで実際にどのような商品・サービスの提供が可能かを分析・検討し、コンセプトを固めていきます。
<行われる分析等>
●コンシューマーインサイトの分析:
既に把握されている受容のほかに、顧客がどのような潜在ニーズを持つのかや、そこから想定される需要の規模などを推定・分析し、コンセプトの開発に用います。
●ニーズ/シーズ/アイデア分析とその統合:
コンシューマーインサイトと合わせ、潜在顧客層が求めるニーズ (需要)、自社が提供可能な商品・サービスのシーズ (種) と、新たな商品・サービスとしてのアイデアを組み合わせ、全く新しいコンセプトを開発したり、既存のコンセプトの新たな方向などを決定したりしてきます。
<必要な情報>
既存の市場と商品に生じている顕在的なニーズについての情報と、潜在的なニーズを掘り起こすためのインサイトの元になる消費者の感覚、欲求等についての情報、自社が提供可能なシーズの有無や調達の可能性、それらを組み合わせて商品・サービス化するアイデアなどの情報が必要となります。
<用いられるリサーチの手法>
インタビュー、ブログ解析やMROCC (ソーシャルメディアリサーチ (リスニング) やSNS調査)、コンセプトモデルを実際に見たり試用したり、体験してもらう会場テスト、自宅等での利用状況を調べてコンセプトに反映させるため類似の商品等がどのように使われているかを見るホームユーステスト (自宅利用調査) や、アイデアを拡げるための「新奇調査」「共創」(コクリエイション)、ワークショップなども行われます。
コンセプトが固まってきたら、具体的な市場でのポジショニングや競合との差別化やターゲットとなる顧客の層やセグメントなどをほぼ確定し、コンセプトの具体化に向けた戦略策定を行います。
<行われる分析>
●競合分析:
コンセプト化された商品・サービスについて、実際に競合となる企業や商品等の内容について、以下のポジショニング分析や差別化要因分析と一体的に行います。
●ポジショニング分析:
商品・サービス等を生み出そうとする市場、あるいは新たな方向性や価値を出そうとする市場について、顧客となる消費者が重視している価値 (価格、性能等の効用) の項目における相対的な位置関係を分析します。
●差別化要因分析:
自社の商品・サービス等、あるいは競合となる商品等が、顧客層となる消費者の特にどのような価値についてアピールするのか、あるいは既存の競合商品等がどのようなアピールをしているのか、いわゆる差別化要因について分析します。
<必要な情報>
既存の競合企業とその商品・サービスの仕入れから提供までのルートや規模、関係する素材や流通・卸・販売業者や商品等の仕様、販売実績、対象顧客層の内容や実際の購買量などの情報を収集します。
<用いられるリサーチの手法>
この段階でも市場調査や競合調査を行いますが、例えば同じ競合調査でも、環境分析の時よりもより対象を明確にし、調査項目も細分されるなどします。消費者や顧客層についても、より対象を明確にしてのヒアリングやアンケート、統計量等について、必要な追加調査を行います。
いよいよコンセプトを実際のブランドやシンボルの開発・設定をすることになります。
競合他社のブランディングを研究するとともに、自社の既存のブランド・商品等も考慮したうえで、全く新しいブランドを構築するのか、既存のものを修正するのか、既存のブランドにそのまま組み入れるのかなども選択肢として検討します。
<行われる分析>
●他社ブランドの分析:
他社の商品・サービス等のブランド設定、商品等のラインナップ構成を分析し、吟味します。
●自社既存ブランドの分析:
今回対象とする商品・サービスを全く新しいブランドに位置づけるのか、既存のブランドに加えるのか、自社の既存ブランドの状況についても確認します。
●商標登録等の調査分析:
あらたなブランドやシンボルを設定する際には、他社による商標等の登録状況についても権利の侵害等がないかを確認します。
●ロゴやシンボルのデザイン等:
開発・設定したブランドコンセプトに相応しいロゴや意匠もこの段階で設定します。
<必要な情報>
商標やロゴなどがすでに登録されていないかをはじめ、ブランドの設定が設定した顧客層に受け入れられるか、独自性や競争力があるかを検討・確認する為に他社のブランドや商品の詳細情報や、想定する顧客層の反応・反響などの情報を収集します。
<用いられるリサーチの手法>
この段階では、予定するブランドや商品等の商標登録等に関するリサーチや、想定したブランドの名称やイメージ、それらを構成するロゴやデザインについて、社内を使ってあらかじめの反響を試すオフィステスト、さらに広げて想定する顧客層等の代表的なパネルへのヒアリングやアンケートにより試作品等の受け止め方、反響等についてテストリサーチを行います。
事前に他社や自社の既存ブランドについて、ブランドの浸透度調査を行うこともあります。
この段階では、4Pといわれる、商品・サービスの実際の提供に向けての最終的なデザインやパッケージ等の仕様、価格、設定や流通経路、広告宣伝等の経路や費用等について決定します。そのために、競合商品についての同様の調査や販売状況、顧客の購買動向の観察調査、ターゲット層の受け止め方についても確認のためのほぼ最終決定に近い状態においてのアンケート調査などを行います。
<行われる分析>
●4P分析:
製品 (Product)、場所 (Place:流通、販売箇所・立地)、価格 (Price)、プロモーション (Promotion:広告宣伝、販売促進) 等の切り口から、先に策定したマーケティングの基本戦略に沿って、具体的に決定していきます。
<必要な情報>
他社商品・サービスや、自社の関連する商品等の4P関連の情報や、それについての顧客層の購買行動、評価などの情報を収集します。
<用いられるリサーチの手法>
ここでも顧客層を中心に、テストマーケティングや顧客層と想定する消費者を対象に、受け止め方やコンタクトポイントでの反応について、アンケート、インタビュー、会場調査や観察調査を行い、最終的な確認を行います。
また、価格決定 (Price) には、価格に対する消費者の感応度や許容度を図るPSM調査やDAPP調査、「場所」(Place) としての実際の販売エリアの決定には「商圏調査」を行う場合もあります。
マーケティングミックスを決めたら、実際に市場に導入していくことになります。
導入の詳細を決めるためにこれまでの調査について追加調査や再確認の調査を行なったり、導入後に消費者や顧客層の実際の反響について、コンタクトポイントでの観察調査やヒアリング調査、アンケート調査を行い、想定した通りに進んでいるか、修正・調整が必要となっていないかなどを確認します。
<行われる分析>
●市場性分析:
すでに述べたSWOT分析、PEST分析なども市場分析の一つの手法ですが、この段階では主に市場への浸透の速度 (シェアの獲得速度) や持続期間などを重点的に分析します。
●収益性分析:
設定した価格や分析した市場性から、商品・サービスのライフサイクルでの売り上げ、調達・生産等のコスト、販促等の費用を勘案した収益性の分析をします。また必要に応じて他の商品やサービスを選択した場合との比較検討も行い、経営的な意思決定のための分析を行います。また想定・期待を外れた際の撤退のルールについて、予め社内での合意を形成しておく場合もあります。
<必要な情報>
類似商品等のライフサイクル、展開等の実績についての事例情報や、製造や流通、販売等の提供に必要な費用、投資額や販売計画と、それに伴う費用などの情報になります。
<用いられるリサーチの手法>
関係者への実際の売買等を前提としてのインタビュー、交渉や先行販売に対する顧客層の反応を確認したり成果を測定したりするためのアンケート、インタビューやコンタクトポイントでの調査が行われます。
このように、アンケート調査はどの段階でも利用されますがステージごとに各種のリサーチを組み合わせて、意思決定に必要な調査が様々な手法・方法で行われることが理解されたでしょうか。
前項では、主にマーケティングの6段階とそこでのリサーチ手法の例を見ましたが、マーケティングの段階にかかわらず、リサーチの目的は基本的に「探索」「実態把握」「成果測定」「因果関係の発見」のいずれかに区分することができます。
ここではこの「目的」の面から見たリサーチの手法・方法の使い分けの例を見ておき、これから行おうとする調査が「どのような目的の調査なのか」という観点からも、リサーチの手法を選ぶ際に検討を加えてください。
<探索を目的とした調査>
マーケティング初期段階での市場のニーズや消費者の現在の意識・受け止め方、考え方からのインサイト(示唆)、アイデアなどを探る目的で行う調査です。
観察法などによるエスノグラフィック・リサーチや、投影法やラダリング等の技法を用いてのグループ・インタビュー、デプスインタビュー、ワークショップなどが行われます。
<実態把握を目的とした調査>
やはり主にマーケティングの初期段階で、消費者の実際の購買状況や商品の認知、選別、購買の意思決定などの実際の状況の把握 (実態把握) のために行う調査です。各種の定量調査や観察法、オフィステストや会場テスト、ホームユーステストなどが利用されます。
<成果を測定することを目的とした調査>
マーケティング活動の中で、施策を実施した場合などに、その効果を測定する目的でマーケティング調査を行うことがあります。この場合も、調査の手法は多く実態把握のための手法・方法と共通しますが、施策を行った効果・影響が期待されるターゲット層に対して実施し、特に施策前の同様の調査と比較することで効果・影響を測定します。
<因果関係を発見するため調査>
主にマーケティングの戦略策定や実施計画の策定段階において、顧客の嗜好や購買の意思決定などに影響を与えている要因を探るために行われる調査です。試験的なマーケティング施策 (広告宣伝や価格、パッケージの変更など) をエリアや販路などのサンプルを決めて実施し、実施しなかったサンプルとの比較を行い、成果を測定する「実験計画法」といわれる手法を用いた調査が行われます。
マーケティングリサーチには様々な手法・方法があり、使われるシーン毎に多様な選択肢があることをご理解いただけたでしょうか。
実際には2章でご紹介したように、リサーチには企画・実施・分析、報告の主なステップがあり、実施後の「分析」のやり方によっても、得られる情報の質や内容をコントロールすることができます。
さらに、最終的なマーケティングの判断、意思決定のためには結果を共有するための「報告」のまとめ方なども、正しい意思決定のためには重要です。
実務上は広告代理店やリサーチ会社を利用するシーンも多い事と思いますが、リサーチのニーズが発生した時、あるいはひとつのリサーチが完了したときに、目的と結果を振り返って見て、手法や分析、報告の在り方の整合を確認することが、より良いリサーチへの一歩となります。皆さんもぜひ次のリサーチで検討してみてください。
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