IPOを目指すなら!知っておきたい準備の基本と注意点
2019/11/27
「ユニコーン企業」という言葉が使われるようになって久しいですが、米国のユニコーンの一つと目されていた「ウィーワーク」のIPOが予想外の結末を迎えました。
2019年8月14日に証券取引委員会 (SEC) に登録届出書を提出したウィーワークですが、同社の筆頭株主であるソフトバンクグループが「ウィーワークの事業とコーポレートガバナンス (企業統治) に投資家らが強い懸念を表明したことを受けて延期を協議している」と英紙FTが9月9日に報じました。そして、共同最高経営責任者 (CEO) のアーティー・ミンソン氏とセバスチャン・ガニングハム氏が「強固な基盤を維持する中核事業に集中するため」とコメントし、IPOの延期が決定したと10月1日に報道されました。国内でも、8月9日に公開したバイオベンチャー「ステムリム」社が、売り出し過程の1か月間で企業価値が3分の1となり仮条件の再下限の価格での公開となるなど、IPOの難しさを浮き彫りにしました。
近年、IPOを目指さずに大手企業への事業売却をゴールとしたり、極端な例ではそもそも「売るために起業する」と豪語する起業家も出たりしています。大企業側もオープンな開発の一環としてベンチャー支援や買収を積極的に行い、投資予算額が空前の額になるといった動きもありますが、依然としてIPOを一つの目標として目指す企業は絶えません。
しかし事業性の確立もさることながら、このIPOのプロセスで「専門家」の思惑に左右されたり、会社の設立から成長期に反社勢力等の影響を受けたりして、せっかくの成長事業が台無しになる例や、上場後に廃止になってしまう例なども少なくありません。IPOを目指す企業は、その全容と過程にある落とし穴を理解しておくことが大切です。
目次
ベンチャー企業にとって一つの目標でもあるIPO。その意味や魅力について紹介します。
IPOとは「Initial Public Offering」の略語で、日本語で「新規株式公開」あるいは「新規上場」と呼ばれ、未上場の企業が株式市場 (証券取引所) に株式を上場させることを言います。
IPO株は、売出価格 (公募価格) より高い上場初値がつくことも多く、すでに公開されている株式に比べて価格の上昇幅が大きいため、株式投資家にとって魅力的な投資先であると知られています。
IPOは、募集している株式数を上回る応募があるケースが普通です。
注目を集める企業であれば、その倍率は数十倍という数字になるケースもあります。
投資家がIPO株を取得するためには、高倍率の抽選に参加し、当選する必要があるのです。
このように投資家から高い人気を誇るIPOは、新規公開時やその後のタイミングで一気に多額の資金調達が期待できるため、企業オーナーは事業拡大に向けた投資をスピーディーに実行できます。
IPOによって、株式上場企業としての知名度や社会からの信用も手に入り、集客力の向上や取引先との関係の強化・改善も見込めるでしょう。
また、IPOを行うには株式上場のための厳しい審査基準をパスする必要があります。それをクリアできたということは、社内のコンプライアンス遵守や適正な財務報告を実施するための内部管理体制がしっかりと構築され、パブリックカンパニーとしての一定の基準を満たしていると証明することにもつながります。結果として、社内の不正防止に努め事業の透明性を高められるため、社会的信用度の向上も見込めます。知名度や社会的信用度が高まり、さらに資金調達力の強化によって社員の待遇が改善されれば、従業員の士気高揚につながり、また社員の新規採用においても優秀な人材を集めやすくなる可能性もあります。
このように、起業間もない小規模のベンチャー企業にとって、IPOの達成は事業拡大、利益拡大を飛躍的に推進させるきっかけになりうる、一つの大きな目標と言えます。
IPOの件数は、リーマンショック発生直後の2009年に一度激減したものの、その後は右肩上がりに回復し、現在は再び新規市場の勃興時代と言われています。とはいえ、上場に向けた準備は容易なものではありません。パートナーとなる証券会社、監査法人、ベンチャーキャピタルや顧問弁護士などの選定に始まり、株式公開に向けた社内的な業務プロセスや管理体制の見直し・改善、専門チームの立ち上げ、社員の意識改革や組織改編も必要になります。
外部向けにはさまざまな手続きや上場審査の対応、IR活動など、必要とされる準備作業は広範かつ多岐にわたります。準備にかかる期間も、少なくとも2年半から3年程度かかるのが一般的です。
それでは、IPOにはどのような準備が必要なのか、主なものを具体的に見ていきましょう。
IPOの準備は、まず監査法人にショートレビューを依頼するところから始まるのが一般的です。
依頼を受けた監査法人は、企業をさまざまな角度から総合的に調査した上で、企業の現状、解決すべき課題、上場までの適切と思われるスケジュール等を報告書にまとめて企業に提出します。
企業は、受け取った報告書を元に、株式上場を行うのが自社にとって適切なのか否か、そもそも現状で株式上場が可能なのかどうかなどを仔細に検討することになります。
検討の結果、上場に踏み切る決定を下したら、いよいよ上場準備作業に入ります。
監査法人の役目はこれで終わりではなく、上場達成に至るまで会社の会計や決算が適正であるか否か、内部統制がきちんと機能しているかなど、さまざまな側面からの外部監査を行います。
先にも述べた通り、IPOは会社にさまざまなメリットをもたらしますが、株式公開後は上場企業としての社会的責任や経営責任が発生します。上場にあたっては、企業と経営者は上場企業に求められる社会的責任を十分に認識し、それを確実に果たせるように、社内管理・開示体制の整備を急がなくてはなりません。また、適切な体制を構築・維持するためには従業員の意識づくりも急務です。
上場準備に必要な作業は非常に広範にわたり、また部門間の調整等の作業も多く、相当の時間と労力を要します。通常の業務体制の中だけでこれらの準備をこなすことは、時間的にも物量的にも無理が生じるケースが多いです。そのため、日常の業務に支障をきたしてしまうばかりか、準備作業の遅延やミスにもつながることが考えられます。計画通りに滞りなく株式上場準備を行うためには、専門のチームを編成し、上場準備のための体制を万全にすることが必須です。
また、チームの編成にあたっては、事務職や経理職などの管理スタッフだけではなく、営業部門や技術部門といった現場に精通した人材を編入することも重要です。現場の視点が欠けた状態では、重大な問題点の見落としが発生したり、現場の実情を無視して準備が進められてしまったりといった、思わぬ問題がのちのち発生する可能性があります。
上場の準備は、単に企業を成長させるための手段であるのみならず、経営の健全性やコーポレートガバナンスおよび内部管理体制の改善活動と捉えなくてはなりません。そのためにも、一部の管理スタッフだけに対応を任せるのではなく、全社一丸となって対応する企業体制づくりが必要なのです。
株式上場にあたって、最も重要なパートナーとなるのが「主幹事証券会社」です。主幹事証券会社は、上場準備中の会社側の立場に立って、準備の各段階においてさまざまな角度からのアドバイスを行うことが主な役割です。準備が大詰めとなり、証券取引所に上場を申請する段階に入る頃には、第三者の立場から会社を審査します。上場準備の早期の段階では、上場までのスケジュール、IPOを意識した事業計画と資本政策の策定、管理体制や内部統制の整備等に関するアドバイスを行います。
また、この段階では監査法人も交えて、会社・監査法人・主幹事証券会社の三者で定期的にミーティングを行いながら準備内容を詰めていきます。これらのプロセスを経て、申請書類が作成できる段階に入ると、証券会社の引受部門に対して最終のチェックや助言を依頼することになります。最後は証券会社の審査部門が、企業が上場にふさわしい状態かどうかを第三者視点で審査します。
忘れてはならないのは、株式上場だけをゴールに設定しないということです。上場は、あくまで企業が成長を続けていくための通過点の一つに過ぎません。上場を目指す過程では、さまざまな業務の改善や見直し、財務や管理体制の構築と健全化、適切な事業計画の策定などを実施します。これらは全て企業が継続的に成長を続けていくために必要なプロセスです。上場が達成できたからといって放棄してよいものではありません。
IPOは、実現までに通過する道のりを、単に「上場のための手続き」と捉えるのではなく、「企業をより大きく成長・発展させるために必要な過程」と捉えて準備を進めていくことに大きな意味があるのです。
すでにご紹介してきた通り、IPOには特に新興のベンチャー企業にとって数多くのメリットがありますが、よいことばかりではありません。メリットがある一方で、さまざまなデメリットも存在します。IPOに際して生じるデメリットについても認識した上で準備を進めていかなければ、せっかく多大な時間と労力を費やして株式上場を成し遂げたとしても、全てが水の泡になってしまう可能性もあります。では、具体的にはどのようなデメリットがあるのでしょうか。
株式公開を経ると、会社の知名度や社会的信頼度が向上し、企業価値の増大にもつながっていきます。ただし、それは裏を返せば会社や経営陣が負う経営責任、社会的責任が増大することも意味しています。「企業は社会の公器である」という考え方がありますが、上場企業は非上場企業に比べて、ますますそのような意識が求められることになるでしょう。
社会的責任が増大することで、常に外部の監視の目を受け、さまざまな制約が増えるかもしれません。これにより、会社の経営に関する迅速な意思決定や自由度が阻害されるケースも発生するでしょう。
また、会社の業績や経営に関する事実を、たとえそれが会社にとって不都合なものであったとしても包み隠さず公表する義務も発生します。
前述の通り、IPOの準備のためには、内部管理体制の構築やプロジェクトチームの作成、関連業務に対応するための人員確保、証券会社や監査法人へ支払う報酬など、「ヒト・モノ・カネ」のすべての面で数年に渡って多大なコストが発生し続けることになります。比較的小規模な会社の場合でも、そのコストは金額にして数千万円にのぼるとも言われています。
また、上場すればそれで終わりではなく、上場企業としての信用を担保・維持していくために、証券取引所に対する年間上場料、監査報酬、株主名簿の管理料、株主総会の運営費用などさまざまなコストが発生します。上場は資金調達の手段ではありますが、そのためには相応のコストがかかるため、メリットとのバランスを計算しておくことが欠かせません。
投資家が自社の株式を自由に売買できるようになり、多くの株主を得るということは、経営に関して外部の株主が大きな力を持つことにつながります。その結果、会社の経営方針や事業計画に株主の意向をある程度反映させていかざるを得なくなります。
投資家にはさまざまな性質の人物や団体が存在します。友好的かつ建設的な態度の株主もいますが、必ずしも企業オーナーの理想と意見が合致するとは限りません。また、株主からは常に業績や企業価値向上の圧力も受け続けるようになるでしょう。時には短期的な利益だけを追求せざるを得なくなり、長期的な視野での経営がしにくくなる可能性もあります。
株式上場にあたっては、証券会社、金融機関、監査法人、証券取引所などによって幾重にもわたる審査をクリアする必要があります。
その過程において経営に関わる代表や役員、主要株主などに問題があると判断された場合、経営陣の排除を伴う大幅な会社組織の改変を迫られることもあります 。IPOを行う上で、こうした手続きの遅延は投資家の心象を悪くすることもあります。また、上場後の発展が後ろ倒しになるため、ビジネス面でもデメリットとなるでしょう。こうした手続きを未然に防ぐためには、幹部社員や取引先を事前にチェックしてリスクを排除しておかなければなりません。
また、IPOを行う際は、立場や恩恵の度合いによって社内にモチベーション格差が生じることがあります。例えば、経営層と従業員層、株や予約権をもらった社員と持たない社員の間でのIPOへの合意の不足があると、モチベーション格差が発生し、社内の雰囲気の悪化、業績の悪化などを引き起こす可能性が高くなります。他にもIPOそのものがゴールになってしまい、上場後の成長が止まるなどの弊害も考えられます。
IPOを成功させ、会社をより大きく発展させるためには、社内でのさまざまな業務改善や改革が必要なのはもちろんですが、外部の専門家や専門機関のサポートを受けることも必須です。上場に際して最も重要な要素の一つ が、サポートを提供してくれるパートナーの選定と言っても過言ではありません。
上場の準備段階から、上場を達成した後においても最も重要な役割を担うパートナーが主幹事証券会社です。準備段階でのさまざまなアドバイスから、上場可能かどうかの審査まで、複雑多岐にわたる支援業務を担います。主幹事としての経験と実績を考慮して、優秀な証券会社を選択することが、IPOへの距離を縮めるための最も重要なポイントです。
専門の監査法人の存在もIPOには不可欠です。先の項目でもご説明した通り、上場準備はまず監査法人によるショートレビューを受けるところから始まるのが一般的です。また、監査法人は金融商品取引法に準ずる監査を行いますが、上場申請の際に提出する必要書類には、この監査に基づいた財務諸表等が含まれます。上場の準備段階に必要な手続きだけでなく、監査法人の指導に基づいて会社の業務改善を継続していく結果として、さらに企業の信頼性を高めていくことが可能です。
弁護士は、主に法律面での助言や指導を行います。顧問弁護士を付けておくことで、不注意が元で反社会的勢力とのつながりを持ってしまうなど、法律面での思わぬトラブルを防止できる可能性が上がります。できるだけ早期に顧問契約を締結しておくことが望ましいでしょう。
ベンチャーキャピタルは、未上場企業を中心に投資をするアクティブ投資ファンドです。
未公開株を大量に買い付けることで、投資という形で資金面での援助を行います。
投資対象は未上場企業に限りませんが、投資方針として「ハイリスク運用」を行うことを前提にファンドを組成しているため、高いリターンが見込める未上場のベンチャー企業を中心に投資をしています。
ベンチャーキャピタルは、投資だけでなく企業に対して専門的な知見を活用しアドバイスをするなどして、企業価値の向上に向けた支援業務を実施する場合もあります。
その一方で、多くのベンチャーキャピタルは買い集めておいた未公開株をIPO後に売却して利益を得るという収益モデルなので、公開の前段階においてベンチャーキャピタルの株式保有割合が高すぎると、投資家に株価の下落を警戒される恐れもあります。
銀行のような金融機関も、IPOを目指す企業に対して資金の融資を行っています。また、資本政策に関する助言や、長期的な事業計画の策定支援など、情報提供の支援業務も実施しています。
表のようにIPOは会社法に則った体制を構築し、財務、事業継続など多面的な対応を行っていく必要があります。そのためには、社内のリソースだけではなく、パートナーとなる専門家へのアウトソーシングが必須です。だからこそ、IPOを成功させるためには信頼できるパートナー探しから始めることが大切だと言われています。
IPOを目指すにあたっては、準備段階から上場後に至るまで、社内・社外にまたがり数多くの業務と多大なコストが発生します。しかし、上場がうまくいけば、その後資金面や経営面で、費やしたコストを上回る大きなメリットを得ることも可能です。メリットとデメリットを比較し、信頼できる専門家の助けを受けて、IPOを成功に導きましょう。
上場準備 (IPO) には反社調査が必要です
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