社員の社内不正・不祥事調査の心得と実態解明・対処法を事例で学ぶ
2018/02/05
社員の社内不正や不祥事が発覚したとき、どのような対応を取るべきか。あなたの会社では噂のレベルでいきなり事情聴取など行っていないでしょうか?その場合、偽装工作され、証拠隠滅され、白を切られ、その問題は迷宮入りしてしまう可能性が高くなります。
不正が発覚したタイミングや状況によって選ぶべき実態解明の手法は異なります。社内のヒアリングだけで済ませられるケースもある反面、事態が深刻な場合は外部機関に委託しての証拠収集や実態解明の調査が必要な場合も多々あります。こうした状況把握や証拠の入手を経て、実際の労務アクションに移行しなければ労働争議や不当解雇の訴訟などのリスクを背負い込む結果を招きかねません。
ここでは、社員の不正行為や不祥事への対処の基本と、様々なケースでの事例をご紹介し、いざ社内の不正問題が発生した時の調査・対処法への理解を深めていただきます。
不正や不祥事が発覚してからの初動段階で事態を見誤ったり、方向性がずれたりすることで、事件を解決できないばかりか事態を拡大させてしまうようなことにもなりかねません。
本章では、そのようなことにならない為に迅速かつ計画的に対応するための不正への対処の基本を整理してお伝えします。
● 誰が(Who):不正の当事者は誰なのか、単独なのか複数なのか、組織ぐるみなのか
● いつ(When):不正はいつから起こっているのか、継続中なのか、単発なのか
● どこで(Where):不正はどこで行われているのか
● なにを(What):どんな不正が行われたのか
● なぜ(Why):どのような背景でなぜそれが起こってしまったのか
● どのように(How):どのようなプロセスでどのようなスキームで行われたのか?
これらの項目別に第一報の情報を仕分けすることが不正調査・対処の第一歩です。
この段階で右往左往しているようでは問題の解決はままなりません。
社員の不正・不祥事の場合、人事、総務、法務コンプライアンス、監査などが主に関わることになります。しかし、漠然と部署だけで考えているとその事件を知る人物が不必要に増えてしまい、事件当事者やその周辺者、無関係な社員にまで知れ渡ることになりかねません。関係者が多ければ多いほど情報は漏れやすくなります。対策チームは必要最低限の人員で構成されるべきです。
● 証拠となる可能性のある伝票、帳票類、重要書類は改ざん・隠ぺいを防ぐため現物を保全する。
● 当事者のPCはできる限り速やかに回収し、その後は一切転用しない。ハードディスクはルールに則り現状のまま保全する。
● 社内サーバー内の情報や、事件関係者の電子メールについては、現時点での情報を全てコピーする。
● ブログやインターネット上での書き込みが絡む事件の場合、即座にコピーする。
不正が横領・背任など不法行為の場合、経営判断で刑事告発をする可能性が生じます。
この場合、立件のための証拠として採用されるか否かは非常に厳格に精査されるため、このことを念頭においた証拠保全が必要です。
● その事件が刑事事件に発展する可能性があるのか?
● 損害規模がどの程度まで拡大するのか?
● 関与の可能性ある社員や組織はどの範囲か?
● マスコミにリークされて社会に露見する可能性はないのか?
● ニュースリリースや記者会見の必要はないのか?
● それは会社の屋台骨を揺るがすような事態にならないのか?
など、具体的な想定ができないと、この後の対応方法の選択を誤ることになります。
パソコンの解析、社外の人物や法人への取材調査、行動監視などの調査は社内のスタッフでは実施できません。顧問弁護士を通じて手配してもらう方法もありますが、弁護士業務と平行しての手配で実施に時間が掛かってしまうケースが多いです。このため、各分野での調査会社等委託先は事前に調べて確保しておくべきです。そうすれば、事件発生後迅速な調査・対処が可能になります。
不正の発覚が内部通報による場合は、通報者からのヒアリングを始めに行い、まずは通報事実が不正・不祥事といえるかどうかの検証をすることになります。その後、不正に関連した情報をできるだけ多く収集するために関係者へのヒアリング調査へと歩を進めます。そして証拠収集とともに追求のための十分な証言・情報を得た後に不正嫌疑者へのヒアリング調査へと移行することになります。
しかし、関係者の中には不正行為を直接知っている者、不正行為者と通じている者、なんらかの形で不正行為を幇助しているものなども含まれる可能性があります。このため、場当たり的に人選しそのヒアリングの順序を誤ってしまうと、不正嫌疑者に調査の実施が内通されて証拠隠滅に繋がったり、口裏合わせをされたりするリスクが高まります。このように社内ヒアリング調査は実施方法を誤ると諸刃の剣になりかねませんから、周到な実施計画が必要となります。(内部通報とヒアリングについては一冊の本が書けるくらいの情報量になりますので、詳細は別のコンテンツに譲ることにします。)
ここでは横領、情報漏えい、副業、欠勤理由虚偽、行動予定虚偽、退職金詐欺の6つのケースで、事件の発生からどのような調査を実施して、いかに労務アクションに繋げられたかを、実際に起きた事件でご紹介します。
● 事件の状況
運送会社A社は、大手ハウスメーカーの資材を仮置場から首都圏の各建築現場に配送する業務を請け負っていた。自社の保有トラックは台数が限られているので、そのキャパシティを満たすために下請けの運送会社数社も使っていた。配車の手配は前日の夕方までに管理責任者Bが毎日行っており、配車業務は完全にB一人に任されていた。
ある日A社の代表者Cが帳票をチェックしていると、見慣れない下請け会社D社への配車手配がされ、支払いがなされていることに気が付く。さらに伝票を確認すると荷降ろしの際の作業員にも従来見たことのない人物Eが支払い先に名を連ねている。帳票を遡ってチェックすると、過去10ヶ月に渡りD社への配車、作業員Eの手配が継続されており、これらへの支払いの総額は800万円を超えていた。
代表者Cはこうした不正が疑われる事案にどう対処していいのか判らず社内にも相談できる右腕がいないことから、こうした横領事件などに強い弁護士に相談をし、実態解明をするために調査会社を使うことにした。
● 実施された調査と結果
● 処分と刑事告発
証拠となる帳票類と資材仮置場来場のトラックの状況、D社が架空であることの裏付けなどを材料に管理責任者Bに事情聴取を行ったところ、言い逃れはできないと観念し計画的な横領を自白した。これをもって、Bには懲戒解雇の処分がくだされた。しかし、横領された800万円超の金額を弁済させることはBの経済状況を鑑みると困難との判断もあり、相談した弁護士からも告発のための十分な証拠を得られているとのアドバイスも得て代表者CはBを刑事告発して警察に受理された。このケースではA社のオーナー社長であるCが、いきなりヒアリングなど始めることなく弁護士の相談を仰ぎ、状況確認と証拠収集を実施したことで実態解明と自白、そして刑事告発受理に繋がった事案である。
● 事件の状況
投資用マンションの開発・販売を事業とするG社で、自社主催セミナーに参加した見込客3人が、ある時期に立て続けに競合不動産会社H社の物件を購入してしまうという事案が発生した。
H社は競合として意識していた企業であったことと、G社を退職した元営業課長が同社に就業している情報を得ていたため、見込客情報が流出した可能性が疑われた。
● 実施された調査と結果
● 労務アクション
上記ログ解析の結果をもって、Iを呼び出し聞き取り調査した結果、元営業課長の誘いに乗り、見込客データベースから情報をコピーしH社に漏洩して、キックバックを得ていたことを自白した。
この事実を基にIに対しては懲戒解雇の処分がくだされた。
このケースでは、G社が社員のPCや共有サーバー、データベースなどのログ収集システムを導入し、かつ社員にはその事実を告知していなかったために解明できた事案である。大手企業では常識となりつつある社員PCのログ収集も、中小企業ではまだまだ普及しているとは言い難い。情報漏えい事件への対応としてはログ収集システムの導入は必須事項と言えるのではないのだろうか。
〔情報漏えい対策の詳しい情報はこちらの記事をご参照ください〕
1)営業秘密の情報漏洩は会社崩壊を招く/事例・予防策・事後対応を解説
2)個人情報漏洩のダメージは甚大!発生原因と損害状況、防止策を解説
● 事件の端緒
都内中堅学習塾のJ社で正社員として勤務する講師Kが、勤務時間内の外出からの直帰が頻発していた。同僚が不審に思い会社に内部通報したことがきっかけで事件が発覚。
● 内部調査
目的・報告が不明確な外出・直帰を確認するために、勤務表を分析したところ、決まった曜日に定期的に外出しそのまま直帰していることが判明した。
● 外部調査と結果
● その後の労務アクション
顧問弁護士の指導により、いきなり懲戒解雇とする状況ではないとの判断で、戒告処分を行いKの態度が改まるかどうか様子を見ることにした。
しかし、同業の教室を辞めることができず、1ヵ月経過しても同じ状況が繰り返された。
このため、再び行動監視調査を実施して証拠画像を残し、懲戒解雇へと踏み切った。
この事件では内部通報後に十分な内部調査を行い、ある程度の実態解明ができていた。
そのため、決定的な証拠を得るための行動監視調査の実施日が絞り込むことができ、効率の良い対処ができた好例と言えるだろう。
● 事案状況
大手不動産管理会社の子会社L社で勤務するMは、1年前に親会社からの異動でL社に資産管理課長として赴任した。しかし、着任直後から本人の体調不良(めまい、発熱、風邪、腰痛など)や家族の体調不良、親の入所施設訪問などを理由に有給休暇を使って頻繁に休むようになった。着任半年後には有給休暇をすべて消化してしまい、さらに欠勤を重ねるためにL社人事担当役員はその欠勤理由に疑いを持たざるを得なくなった。このため調査を利用して欠勤時の行動を確認することになった。
● 実施された調査と結果
● その後の労務アクション
今回の調査結果を元にMの欠勤理由は大半が嘘と判断し、これらの結果に基づくヒアリングを行った。Mは様々な言い逃れを試みたが、最後には3日間の嘘と書類の偽造を認めた。
その結果、L社は懲戒解雇の処断をくだした。
この事案は問題の顕在化とともにMへの指導など行っていたものの、実態解明へのアクションが遅れてしまい、結果的に勤怠不良を黙認した状態になってしまっていた。早い段階で行動監視に踏み切っていれば、組織的なストレスもコストも相当に抑えられたのではないだろうか。
● 調査の動機
IT系ベンチャー企業N社の取締役Pは営業分野を管掌している。オーナーでもある同社の社長は近い将来Pに代表者として会社を率いてもらいたいと考えていた。ただしPの日頃の行動に若干見えにくいところがあり、全幅の信頼を寄せることができずにいた。念のために、ある週の3日間、事前に記入されている訪問先に実際に出向いているかどうかの確認をするために行動監視調査を行った。
● 調査実施と結果
● 結果を受けての労務対応
結果として就業時間中に私的な用件を入れ、嘘の申告をして誤魔化していたことが判明。
力のある役員でもあり、懲戒などでモチベーションを下げさせるのは得策ではないと判断し処分は見合わせるものの、現状のポジションで当面様子を見ることにした。
同時に会社全体で行動予定申告や報告義務の管理強化を図る施策を行うこととした。
小さな組織の場合、戦力となっている幹部が一人抜けてしまうダメージは相当に大きい。
調査結果を受けて懲戒などの拙速なアクションをしないという選択もありうることを示した例である。
● 事件発覚の経緯
中堅システムインテグレータR社は営業幹部候補として、ヘッドハンティング会社からの紹介でSを採用した。研修もそこそこに営業の現場に赴任させたところ、これまでのコネクションのある企業に行くといって頻繁に外出するようになった。本当に営業活動をしているのか不審に思った営業部長が活動内容の詳細な報告を求めたところ、その翌週に「営業部長からパワハラを受け、精神的な苦痛により体調不良に陥った。」と診断書を携えて人事部に訴えてきて、R社側は抗することもできずそのまま休職に入った。
人事部が営業部へのヒアリングを行ったところ、パワハラと呼べるような指導や接触は為されていないと判断された。そこで状況確認のひとつとしてSの過去の履歴を確認すべく採用調査を依頼することにした。
● 採用調査の結果
上記のようにSの職歴の申告内容と調査結果には経歴詐称と言わざるを得ない大きな乖離があり、直近の就業先ではR社と同じような状況が発生していたことが判明した。
● 結果を受けての労務対応
R社は社内のヒアリングと採用調査の結果を受けて、Sは経歴の詐称とともに過去の職歴においても問題を起こしてきた人物と判断、雇用の継続は不可能との結論を出した。
休職に入って1ヶ月経過したころに退職勧奨を試みたところ、Sは精神的苦痛を負わせたR社の責任を主張し診断書を盾に金銭の要求に出てきた。幾度かの折衝を繰り返すも双方は平行線をたどり、試用期間の3ヶ月の期限が見えてきた。問題を長引かせず収束させるためにR社は3ヶ月分の給与を解雇予告手当てに加算して支払う提案をし、Sは退職勧奨を受け入れた。
● 後日に発生したSの調査依頼のこと
R社での顛末から約半年の後、OA販売大手W社の営業幹部候補の募集に対して、人材紹介会社からSが紹介された。W社は面接を行い、内定通知を出す前にというタイミングで前述の調査を実施した調査会社に人物調査の依頼をした。そこで調査会社に開示された履歴書は、R社へ出されたそれとは記載内容が8割方異なるものだった。W社の採否判定は当然のことながら不合格であった。
世の中にはこのように自分の経歴を嘘で塗り固めて、企業に採用されて休職手当てや保障金などをせしめている輩が極まれに存在する。事前の調査を実施してこのような人物を採用さえしなければ起こらなかったトラブルであった。
〔採用調査のをもっと詳しくお知りになりたい方はこちらの記事をご参照ください〕
経歴詐称・モンスター社員で痛い目に遭わない為の採用調査の活用方法
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