中小企業の人材確保~ポイント、対策、注意点、そして役立つ調査~

2018/10/11

中小企業の人材確保

東京商工リサーチが毎月発表している「全国企業倒産状況」において、平成30年8月には「求人難型倒産は過去最多を記録」と報じられました。人手不足関連倒産は今年5月にも平成25年1月の調査開始以来最多の37件と報じられており、これが8月には45件に到達、そのうち「求人難型」が13件だったとのことです。東京商工会議所が毎年行っている「中小企業の経営課題に関するアンケート」の平成28年度版においても、売り上げ拡大の課題として、最多の71.6%の企業が「人材の不足」を挙げています。
またリクルートワークスが毎年行っている「大卒求人倍率調査」では大卒、大学院卒の求人倍率は全体では平成29年3月度には1.78倍から1.88倍へと、わずか0.1ポイントではありますが増加し、平成24年の1.23倍から7年連続での増加となりました。中でも、従業員300人未満の中小企業に限って言えば有効求人倍率9.91倍と、非常に高い水準であった前年の6.45倍からさらに大きく上昇し、過去最高となっています。就職協定廃止の議論とも相まって、新聞各紙でも企業規模のいかんを問わず、採用難と対策に関しての記事もますます増えているようです。

そのような状況の下で、企業にとっては事業を維持、ましてや拡大するための人材確保は、従来のやり方を「もう少し頑張る」だけでは達成できなくなりつつあります。ここでは中小企業が陥りがちな人材確保に関しての「誤解」と、社員の採用から退職までのフローの中での人材確保のための「ポイント」についてまとめてみました。人材確保に少しでも困難を感じ始めている経営者、総務・人事の方はぜひ読んでいただき、改善に活用してみてください。

 
1. 中小企業が陥りがちな「人材確保に関する誤解」5つ

人材確保に苦労している中小企業が陥りがちな傾向がいくつかあります。ここで主なものを5つ挙げてみましたので、まずは自社に当てはまるところがないか確認してみてください。

 
1-1. 給与水準アップで引き寄せる!

採用の応募がない、内定を出しても辞退される状況が続くとき、真っ先に考えるのは「給与の設定水準が低すぎたかな」という事ではないでしょうか。もちろん、極端に低い水準では当然ながら不利になりますし、業界や競合に比べてかなり低いと感じる水準を掲げることは、候補者から見ればなにか意図や理由があるのかな?とも勘ぐってしまうことにもなります。
一方で、採用時の報酬だけを上げたり、高く掲示しても、昨今の就職情報のサイトなどでは在職者、退職者からの入社後の給与の情報が共有されていることも多々あり、実効性には乏しいといえます。
上述の就職情報のサイトなどの例でいえば、その他の企業評価の指標になっている人事評価の適正感、法令順守意識などの全体の項目での評価 (≒魅力) のアップを図り、そのうえで社会貢献等の明確なビジョンに基づく”社員の士気”であるとか、工夫を凝らした社員教育での”人材の長期育成”など「当社ならでは」のアピールポイントの形成が不可欠です。よほど業界/競合を上回る高水準の報酬を長期間約束できるのでない限り、給与水準はあくまで衛生要因であると認識し、これに頼るのは避けるべきです。

 
1-2. 採用は総務・人事で!

人事担当者や配属予定先の責任者から「最近応募がない」「面接の候補者が上がってこない」「内定を出しても辞退が続く」といった報告が上がってきたとき、経営者や役員の方はどのように対応しているでしょうか。「もっと数を増やせ」、「もっと頑張れ」や「とりあえず書類選考は落とすな」といったあいまいな、あるいは小手先の指示を担当者に出すだけでは、これからますます厳しくなる採用難はもはや乗り切れない可能性が高く、最悪の場合は疲弊した人事担当者が辞めていくといった事態さえも引き起こしかねません。
特に中小企業の場合には、冒頭に取り上げたような採用難の事態は、もはや採用は総務・人事部門のみの問題ではなく、経営問題と化しているのです。

 
1-3. 採用チャネルと母集団の数が決め手?!

前項の現場任せとも通じますが、「なんとかしろ」とあいまいな指示を受けた人事担当者がまず行うのが、新たな人材紹介会社との契約や、すでに取引のある紹介会社への候補者紹介の増加依頼です。
紹介会社やその担当者ももちろん依頼する企業についてある程度は理解をしてくれていますが、どの企業からもそのような依頼を受ける状況の中で、特定の企業のみに肩入れしてくれることは期待薄ですし、「こちらも積極的に採用したいようです」程度の紹介で応募してくれる候補者の果たして何割が、面接をクリアして入社し、そして定着してくれるのでしょうか。
採用チャネルを豊富に持つこと自体は重要なことですが、安易に母集団を増やしても、むしろ面接、採用、手数料などの面で余計にコストがかかってしまう事も増えてしまいます。
やたらとチャネルを増やすのではなく、自社の求める人材像にあった求職者へのリーチを持つチャネルを見極め、適切な候補者を紹介してくれるチャネルとお付き合いしましょう。

 
1-4. 人手不足にはとにかく採用!

人材の確保が必要なケースは大きく①現状と同じ事業 (の業務量) を維持していくのに必要な人材が足りない場合 (退職者が採用を上回る場合) と②事業の拡大に採用が追いつかない場合とが考えられます。どちらの場合も人手不足になりますが、毎年の離職率が15%の企業と5%の企業では、新たな必要な採用数にも大きな差が出ます。(もちろん実際の数は企業の規模にもよります。) 人材確保の問題を採用だけの問題としてとらえるのではなく、離職率が高い会社ではこれを引き下げる試みも重要な経営課題といえますし、労働生産性が低い会社ではこれを高めることも同じように重要です。また近年、内閣府を中心に議論が高まっている70歳定年制や再雇用制度の活用なども、単に社会的な問題にとどまらない人材確保の重要な手段として検討してみる価値があります。
参考までに厚労省が発表している企業規模別の新卒者の離職率の状況を紹介しておきます。中小企業、特に規模が小さくなるほど3年以内の離職率は増加し、1,000人以上の大企業のそれの2倍以上となっていて、まさに「人材確保の自転車操業」の様相を呈しています。

<企業規模別新卒者3年離職率>

企業規模別新卒者3年離職率
企業規模別新卒者3年離職率

※厚生労働省平成29年9月15日報道発表資料「新規学卒就職者の離職状況(平成26年3月卒業者の状況)を公表します」
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000177553.html

 
1-5. 人材戦略から経営までのコンセプトがない

上記1-4までの総括のようになりますが、結局のところ、人材をどのように確保していくか、経営上のコンセプトの確立が求められています。
資金やノウハウに制約のある中小企業では、派手な採用の仕掛け・広告宣伝や、労働生産性改善のためのAI (人工知能) やRPA (”ロボット”を利用した業務効率化) の導入などは容易ではありませんが、事業の魅力を高めて人材を引き付け、業務の負荷を減らして効率的に負担を少なくし、結果的に人材が確保される、そもそもの経営コンセプトの確立がなければ、人材確保の問題からは抜け出せないのです。

 
2. 人材との「接点」別でみる、人材確保のポイントと対策方法・注意点

人材は会社の存在を知り、関心を持ち、応募して入社、就労を経ていつの日か退職していきます。
会社と人材との接点は、入社前のこの採用募集や応募の検討段階からすでに始まっており、最終的には退職するまであらゆる場面にあります。
この章ではわかりやすい様に、この会社と人材の接点を、下図の様にいくつかのフェーズに区切って整理したうえで、人材と企業のかかわる各ステップにおける、人材確保のための対策、注意点について述べていきます。 

<会社と人材との接点イメージ>

会社と人材の接点イメージ
会社と人材の接点イメージ
 
2-1. 採用時

近年増加してきたスカウト形式や一部のリファーラル形式 (本人が関心を持つ前に紹介された場合等) を除き、「採用時」とは基本的に応募者側が企業を認知し、応募し、面接等の選考や内定の手続きなどを経て入社するまでの間となります。この期間には、多くの求職者に自社のことを知ってもらう必要があるとともに、なるべく自社がターゲットとする人材に近い層に興味をもってもらって応募してもらうことで、効率的な選考をする必要があります。

 
2-1-1. 効率採用と長期定着に~会社の人事方針・採用コンセプトの明確化

適切な人材を採用し、長期にわたって雇用関係を築くには、明確な人事の方針が重要です。採用情報、面接時の内容、新人研修、配属後の就労など、応募者、採用者が抱くイメージと実際が乖離しないよう、基本的な方針を明確にし、それに沿ったメッセージを発信し、人材を募る必要があります。

 
  • 採用にうたう人事方針≒社内の現実理想形 (ただし、現実が確立されたものであること)
  • 方針>>現実応募者/採用者が現実との差異 (ギャップ) を認識した時点で辞退・退職の可能性が高い
  • 方針<<現実せっかくの良い現状が伝わらずに、同業他社等に後れを取るなどして募集がない、応募者の水準が低いなどの損失に
 

また、採用選考のコンセプトも、基本的な人事方針と併せて決めておく必要があります。
例えば自社への関心が高い応募者に絞って「少数精鋭」的な採用を行うのか、広く採用して入社後に教育をしていくのか、といった事も会社としての基本的な在り方を整理しておかないと、経営、人事、配属部署のそれぞれの部門で「ズレている」という事にもなりかねません。
人事方針・採用コンセプトを会社として明確にしておきましょう。

 
2-1-2. 適切なチャネル・採用手法の選択

人事方針等がきちんと確立されていても、求める人材層への適切なリーチがなければ採用に活かせません。いたずらに広告掲載や紹介会社を増やしても、費用や選考の手間のわりに成果が出ない、という事にもなりかねません。
就職情報誌や紹介会社それぞれが、新卒メイン/中途メイン、正社員希望者メイン/パート・アルバイトメイン、サービス業メイン/製造業メイン、あるいは紹介している企業が大手中心/中小企業中心など、媒体あるいは紹介会社としての特性を持っています。また近年では主に自社社員を中心とした関係者からの紹介による、いわゆる「リファーラル採用」や自社ホームページ等のオウンドメディア、説明会などを起点とした「ダイレクト採用」に力を入れる企業も増えてきています。
まずはチャネルの特性や同業他社等の採用手法についての情報収集/比較検討を行い、自社の特性や対象とするターゲット層に近い求職者層にリーチできる、適切なチャネル、手法を選びましょう。

 
2-1-3. 会社のブランディングと求人情報の工夫

近年「採用ブランディング」という言葉を耳にすることが多くなりました。もともとマーケティングの用語であった「ブランド」(を高める、あるいは浸透させるという意味での)「ブランディング」という言葉を採用活動に当てはめたものと理解されます。そのためには同業他社、競合他社に限らず、なぜ他の企業でなく自社を選んで働いてほしいのか、その意味や価値をアピールすることになります。ある意味、第1項の「人事方針・採用コンセプト」の明確化がその内容に、また第2項の「採用チャネル・手法の選択」がその伝達の経路の設定になるとも言えます。
経営理念や業界でのポジショニング、会社の文化や組織、商品やサービス、将来性や報酬体系など、自社を他社と差別化し、人材を惹きつけるポイントは企業によって様々ですが、顧客に向かって自社の商品やサービスをアピール・差別化して選んでもらう様に「ブランド化」するように、人材に向かっても自社をブランディングする必要があるのです。

 
2-1-4. 具体的な採用基準と効果的な面接

採用コンセプトの確定ともリンクしますが、必要な人材像を明確化し、応募者があれば具体的な採用基準に基づいて採用面接・採用評価を行う必要があります。「協調性のある人」「自主性のある人」「積極的な人」といった、一般的ですが具体性に欠ける評価項目だけでは、結果としての採用理由は「採用担当者がそう判断したから」だけという事にもなりかねず、最終的には二次面接での不採用や、採用後の配属先での不適合という事態も生じます。
採用マーケティングとの共通事項ともなりますが、採用人材のいわゆる「ペルソナ」(仮想的な人材像) を設定、そのペルソナに求められるスキルや経験、判断や行動の基準といったものを実際に明文化し、社内での協議共有をすることで、採用基準や、面接時のポイントといったものを明らかにすることができます。またそうすることで、直接の配属先でない人事部の採用担当者も、共通理解と自信をもって面接や選考を進めることができるようになります。

 
2-1-5. 風評被害のチェックと回避~ネガティブ情報で避けられないために

最近の人材確保の、特に採用時の注意点として挙げられるのが、採用に関しての風評被害への対策です。各種採用情報サイトでは、主に退職者による会社の評価の掲載が一般的になってきました。中小企業の経営環境で従業員のすべての要望を高い水準で満たすことは容易ではありませんが、必要以上に悪い評価、ましては根拠のない中傷などを受けることがないように、適切な就労環境の整備や退職者へのフォローを行うとともに、万が一そのような掲載などがあれば、その誹謗中傷を掲載しているサイト運営者への相談や申し入れなどの風評被害対策が必要となることもあります。

 
2-2. 入社時

入社時は、採用を決定した後実際に採用した人材が入社してくるタイミングです。ここでは出社の1日目から、最初期のオリエンテーション、配属してある程度落ち着くまでの期間を想定しています。

 
2-2-1. 適切なオリエンテーションの重要性~入社時研修の再確認

入社の極初期のオリエンテーションは、採用した人材の定着に非常に重要な時期です。
大企業の新卒社員の入社時は、いったん集合研修等が行われる場合が多いですが、中途採用者や、中小企業の場合は新卒からの入社時でも、即時に予定の配属先に配置される場合が多く、実質的には現場でのOJTとなるため、基本的なオリエンテーションの内容 (就業規則等のルールから業務の特性等まで) をあらかじめ会社として整理しておかなければ、入社時の扱いは配属先や担当した管理者、先輩社員次第、という事になってしまい、せっかくの人材が無事に定着し、力を発揮していくかも「運任せ」となってしまいます。
これを避けるためには、まず採用した人材が最低限知っておく最低限のルール (規定等) や、業務の進め方や会社の仕組みの概要、基本的なキャリアプランイメージなどを中心に、オリエンテーションの内容を整理し、実際に担当する現場の職員にまで共有しておく必要があります。

 
2-2-2. 適切な期待の重要性~ピグマリオン効果とゴーレム効果

オリエンテーションでもう一つ重要なのが、採用した人材への期待役割の説明です。
採用前に設定した人事方針・採用コンセプトによって、採用者に関する期待役割はある程度明確になっているはずですので、その要旨を説明します。
また期待役割の説明に際しては、教育心理学等で知られる「ピグマリオン効果」(期待されるほど能力以上の成果を出せる) や「ゴーレム効果」(期待されないと、能力ほどの成果が出せない)、「ホーソン効果」(期待に応えようという気持ちを持つと成果が出やすい) 等も踏まえて適切に行うと、より有効でしょう。
また大きな期待も過大であれば、逆に重荷となって「つぶしてしまう」ことにもなりかねません。
どのようなメッセージを伝えるのかも、やはり担当者任せではなく会社として確認・共有しておく必要があります。

 
2-2-3. 急がば回れ?~新入社員を担当する管理者への研修・指導

この時期に、もう一つ重要なのが、新入社員にオリエンテーションを実施したり、当初の配属を受ける管理者あるいは先輩社員の「研修」です。
1項で述べたように、中小企業では採用した人材が直接現場に配属される場合が多いために、人材の初期教育、定着は現場の管理者か、極端な場合は隣の席の先輩社員が負うことになります。
実際にはこれらの先輩社員にまで「研修」をする余裕がある中小企業は限られていると思いますが、人事方針・採用コンセプトと、1項、2項で挙げたオリエンテーションの内容、進め方、留意点などを事前に指導/共有することで、入社時のトラブルを防ぎ、人材の確保につなげることができます。

 
2-3. 就労時

採用した人材が定着すると、通常に日常業務に移ります。
ここでは、この期間を「就労時」として、この期間における人材確保の対策と注意点を上げてみます。

 
2-3-1. 職場環境の整備

人材紹介会社各社のホームページにはしばしば「転職理由ランキング」が掲載されています。
なかには「本音の退職理由ランキング」なるものもあります。
もし自社の離職率が高い時には、退職者の申告による理由のほかにも、このような項目で心当たりがないかを確認・検討したり、就職の口コミサイトでの、自社の退職者からの評価が他社よりも劣っている点について、改善に努めるなどが必要です。退職者が多いために採用で人材を確保しなければならない企業では、離職率の改善が人材の確保への近道ともなります。
また現在の職員に対してもES調査(従業員満足度調査)を実施し、時系列的に悪化している項目への対策や、他社比較等において劣っている点についての対策を行うことも、離職を防ぐ重要な手段となります。

 
2-3-2. インナーブランディング

前項との職場環境の改善と重複する部分もありますが、退職理由の上位に挙げられる「ほかにやりたい仕事がある」や「会社の将来性が不安」「幅広い経験が積みたい」といった定性的な要因の背景には、会社が従業員に対して自社の経営方針や魅力、意義と言ったものを明示できていなことが挙げられます。
採用の項で、応募者に向けての会社のブランディングについて述べましたが、すでに社内にいる従業員に対しても、他社ではなく自社で働くことの意味や意義を改めて、繰り返し伝えていく、いわゆるインナーブランディングを行うことも、中小企業の離職率の防止には重要と考えらえるようになってきています。

 
2-4. 退職時/退職後

定年等の場合はともかく、残念ながら途中での退職となってしまった社員への退職時の対応も、一歩間違えると次の社員の採用に悪影響を及ぼすなどの場合があり注意が必要です。
少子高齢化等を背景とした政策的な定年年齢の引き上げの動きを背景に、定年退職の予定者についても、人材としての確保の重要な選択肢として対策が可能な場合があります。

 
2-4-1. リスクコントロールも兼ねた退職者への適切な対応

定年のように、相当に長い時間前から分かっているものでない限り、社員の中途退社は一般的には中小企業にとって大きな痛手です。
やむを得ない事情での退職であっても、会社側がつい批判的対応になってしまったり、退職時の清算金等の負担を少しでも少なくしたい、といった対応になるのも理解できます。
しかし、様々な面から、退職者への対応は「適切に」行う必要があります。
例えば退職者が仕事の上で会社の営業上の重要な機密を知る立場にあったり、何らかの理由で情報をはじめとした資産を容易に持ち出せてしまう立場の場合があります。
もちろん会社資産の持ち出しそれ自体は犯罪ですが、万が一情報漏えい等の不祥事となってしまった場合には、会社にとってのより大きな問題、より大きなダメージともなりかねません。
またそこまで至らないまでも、感情的な面から風評等による評判の悪化 (レピュテーションリスクなどと言います) など、有形無形にマイナスとなる場合があります。
退職者の不満をそのままにしてしまって、企業秘密の漏えいを許してしまったり、将来の採用候補者に悪意のある情報が垣間見えてしまうことは避けたいものです。

 

~ショートコラム~

元CIA諜報員を名乗るJ.C.カールソン氏著「CIA諜報員が駆使するテクニックはビジネスに応用できる」という書でも、退職者について「恨みや怒りなどの感情をなくしてから外に出てもらうことが、すべての人のためになる。CIAでも退職者に対しては何度も面接するなどの対策をとっている」と述べています。重要な情報を扱うCIAならではとも言えますが、中小企業にとっても参考にすべき点があるのではないでしょうか。

 
2-4-2. 定年延長や再雇用制度、「出戻り」制度の積極採用

退職者に対するより直接的な人材確保の対策としては、従来から定年延長や再雇用制度が利用されてきました。職種や個人の体力・健康状態などにもよりますが、退職による人材確保に悩んでおられる中小企業では、再度、これらの制度の活用を検討してみることも重要です。
また、前項の退職者への適切な対応にも通じますが、最近では「出戻り」就職を許す企業も増えてきているようです。エンジャパン社の「人事の味方」によるアンケートでは対象220社中、実に83%の企業が一度退職した社員を再雇用する制度を設けており、実際に67%が再雇用の実績があるそうです。経験者のコメントなどでも、退職への背景が会社への不満にあった場合でも、退職して実際に他社を経験してみると、実はそれほどの問題ではなかったと気づいて退職を後悔することもあるそうです。すでに自社のルールや業務を理解した新の即戦力として、出戻り社員の採用も重要な人材確保策の一つです。

 
2-4-3. OB/OG会、情報発信

退職後の社員との良好な関係の「維持」についてもすでに施策を打っている企業もみられるようになっています。2-4.1項の退職時の円満な関係終了、あるいは2-4.2項で述べた (出戻り) 再雇用にもつながりますが、退職したらその人材との関係は終わり、ではなく、純粋に人としてのつながり(OB会やOG会)から専門性などを軸としたつながり (資格の維持等に係る研修教材や情報等) など、ウェブやSNSなどのツールを利用することで、人材としての退職社員との関係性の維持は、かつてに比して格段に選択肢は広くなり、容易になっています。
また将来的な関係性が継続する場合には、心理的にも先に述べた不祥事などの要因も抑制され、退職者によるリスクのマネジメントにもつながるとも考えられます。
退職時の適切な対応と合わせ、退職後についても会社としてフォローできる部分がないか、ぜひ検討してみてください。

 
3. 人材確保に役立つ調査

自社の人事戦略を棚卸し、人材との接点ごとに改善施策を重ねていけば、採用・人材確保につながっていきますが、この他にも人事面での「転ばぬ先の杖」として、要所要所で適切な情報を入手しておけば、より確実な施策・判断につながります。
人事戦略に役立つ情報の取得には以下のようなものがあります。
施策の策定や意思決定に迷う際には、まずは正しい情報を収集してみることも重要です。

 
3-1. 採用予定者に関する調査

採用募集を行い、応募者に恵まれて想定した人材であると判断したら、すぐにでも内定を出したいところです。しかし、もし仮にそれが管理職のための中途採用であったり、実績を重視しての即戦力採用などの場合、あるいは選考段階で「何か」違和感を感じた場合には、念のために採用調査を行うという選択肢があります。
この調査では、例えばコンプライアンス意識に欠けての不祥事や協調性に欠けての退職など、履歴書ではわかりづらい事実が判明する場合があります。

参考記事:「経歴詐称・モンスター社員で痛い目に遭わない為の採用調査の活用方法」

 
3-2. 他社の人事・採用方針等との比較のための調査

入社時研修、継続研修の整備や「採用ブランディング」などからの他社との差別化によって自社の魅力をトータルで高める必要があるものの、給与水準をはじめ同業/競合他社の人事制度、研修制度、採用戦略なども、人材確保の戦略策定のために貴重な情報です。
採用サイトでの各社の募集要項、業界での評判や伝聞、転職者からの情報などからある程度はうかがい知ることができますが、自社の人材戦略の改善に役立てる為には専門調査会社による調査を依頼するのも一つの選択肢です。

参考記事:「ライバル企業を丸裸にする!競合調査の事例5選~やり方から費用まで」

 
3-3. 風評被害等の確認

中小企業のみならず、採用活動で企業が神経をとがらせているのが「風評被害」です。採用活動をはじめ自社の情報発信にも欠かせないインターネットですが、紹介会社のサイト、掲示板などで退職者にネガティブな評価を受けることはもとより、行き過ぎた中傷をうけたり、最近では採用面接の (批判的な) 状況・情報などがほぼリアルタイムでネットに出回るなど、様々な形で採用活動を阻害する要因ともなっています。
せっかくの採用活動の効果を無にしないためにも、まずは自社が求職者にどのように受け止められているかを知ることが重要です。自社の人事担当者で求人サイト等の評判をチェックすることも可能ですが、多くのSNSサイトなどは会員登録や閲覧履歴等の関係から、自社でチェックするのは容易ではありません。ここぞというタイミングで、あるいは定期的にでも、調査会社を利用してチェックすることも選択肢の一つです。

参考:「ウェブ風評被害対策」(㈱トクチョーの商品紹介ページになります。)

 
3-4. インナーブランディングや職場環境改善のための調査

一般財団法人労務行政研究所が、3年ごとに実施している「人事労務諸制度実施状況調査」では、ES調査(従業員満足度調査)を実施している企業は平成25年時点ではまだ30%もありませんでした。
費用を抑えて自社で行うか、時間やノウハウを買う意味でも外注するか、中小企業には悩ましいところですが、やり方はともかく、人材確保のためのブランディングや職場の環境改善を行う際にも、従業員が自社をどのように受け止めているのか、なるべく正確に知ることがまずその第一歩になります。
まだES調査を実施したことがない企業、あるいは実施していても活かせていない企業の方々は、以下の記事などを参考に、一度有効なES調査を実施して、人材確保に活かしてください。

参考記事:「従業員満足度調査(ES調査)を成功に導く7つのポイント」

 
3-5. 情報漏洩、社内不正(防止)のための調査

一度情報漏洩事件や、不正事件が起き、不祥事として世間に知られるようになった場合、人材確保はもとより企業活動全体について大きな損失です。不正・不祥事の事例を知って、未然に防止する対策をしておくことも、人材確保におけるリスクマネジメントとして重要です。

参考記事:「社員の社内不正・不祥事調査の心得と実態解明・対処法を事例で学ぶ」>

参考記事:「営業秘密の情報漏洩は会社崩壊を招く/事例・予防策・事後対応を解説」

それでもやむを得ず、トラブルでの退職、あるいは解雇にまで至ってしまった場合には、その後のトラブル防止にも配慮が必要です。以下の記事には基本的な退職・解雇についての考え方、退職時のトラブル防止策をまとめてありますので、必要な際にはご参考ください。

参考記事:「【図解で丸分かり】社員の解雇・退職プロセスと派生リスクを理解する」

 
4. まとめ

採用難の時代を迎えて、人材確保は単に人事部の仕事にとどまらず、企業全体として取り組むべきこととなってきています。そのために、単に採用現場にとどまらず、企業理念やビジョン、戦略などを背景としての従業員・求職者へのブランディングまでの大きな方針・コンセプトが必要となってきています。

採用から退職までの、会社と人材との広く長い関係の中で、最適な人材確保のための施策の構築に、ぜひこの記事を役立ててください。 

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また、労務管理にまつわる社員の調査、クレーマーや不審人物の素性調査等もお気軽にご相談ください。

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