社内不正のヒアリング調査は両刃の剣、失敗しない為のノウハウを学ぶ

2021/02/24

ヒアリング調査

横領、背任、サボタージュ、情報漏えい、データ改ざん、不具合隠ぺい、ハラスメントなど企業内で発生するあらゆる不正。その不正への社内調査として【客観的な証拠を集めること】【関係者の証言や本人の自白証言を得ること】は問題解決と予防対策、そして適正な処分を行うために実行しなくてはなりません。そのアクションの中で、『ヒアリング』は社内調査の中でも核心に迫る事ができる最も有効な調査ですが、その手順や手法を間違えると問題解決できないどころか傷口を大きく拡げかねない難しさを孕んでいます。
この記事では社内不正解明のためのヒアリング調査の知っておくべきノウハウを解説します。
 

 
1. ヒアリング調査の目的

社内調査におけるヒアリングの目的は、不正実行者の特定と不祥事の原因究明をすることにあります。既に発生した不祥事の概要、不正実行者に関する情報などについて、関係者から関連情報を聞き出し、入手済みの業務文書・PCデータ・Eメール送受信記録等の客観的証拠との照合・整合性を確認しつつ、最終的には不正実行者本人からの自白を引き出すことが重要です。
もちろん客観的証拠だけで不正が立件され懲戒処分に至ることができるケースもありますが、不正実行者の自白がなければ、その手口や動機の解明ができず再発防止策を策定することもままならなくなります。また、自白を得られないことで収集された証拠や関係者の証言の信用性に疑義が生じて、社内調査自体が失敗に終わってしまうことにもなりかねません。

※不正調査全般を扱った記事はこちらを参照ください。
社員の社内不正・不祥事調査の心得と実態解明・対処法を事例で学ぶ
 

2. ヒアリング調査で前提となる大切な四つのポイント

ヒアリング調査を実施するにあたり、大前提として押さえておかなければならないポイントが四つあります。
これを一つでも欠くことがあれば調査の失敗はおろか、新たな火種を撒きかねない重要なファクターですので、しっかり理解しておきましょう。
 

2-1. 内部通報者の保護

企業における社外相談窓口など内部通報制度の普及によって、社内の不正は内部通報でその端緒が発覚することが多くなってきています。
通報があり調査を開始するにあたり内部通報者を保護することは最重要事項です。
社内調査を始めることで「通報者探し」が起こり、内部通報者が露見して社内での居所をなくしたり不当なハラスメントに発展するようなことが生じてしまっては、企業内の不正や不祥事を発見する有効な手段である内部通報制度そのものが機能しなくなってしまいます。
関係者や不正容疑者へのヒアリングにおいて、通報者本人はもちろんのこと、その人物が推定されてしまうような関連情報が流出・露見しないよう細心の注意を払うことが求められます。
 

2-2. 調査そのものが露見しないこと

不正・不祥事への社内調査実施がなんらかの形で社内にリーク・拡散したらどうなるのか?
まず不正実行者に知られれば間違いなく証拠隠滅のアクションに出るでしょう。
そして協力者がいるとすれば口止めや口裏合わせを根回しされることも想像に難くありません。
一方、不正とは関係の無いその他の社員に調査実施の情報が広がったらどうでしょうか。
恐らくは犯人捜しの詮索が始まったり、尾ひれが付いて根も葉も無いフェイクとして広まったり、疑心暗鬼になって人間関係がギクシャクしたりといった事象が想起されます。
この様な状況に陥ってしまえばもうヒアリング調査の続行はできなくなってしまいます。
そこで、調査実施の露見を防止する手法を二つ紹介します。

1)擬装調査
不正解明の為の調査であることを隠して、業務改善・効率向上などを目的と称した監査のためのヒアリングと装ったり、品質管理チェックのためのインタビューなどとして本来の目的を露見させない手法です。

2)「木を隠すなら森の中」調査
不祥事が発生したと想定される特定の部署だけに対して調査を実施すれば、社内でその部署への関心が集まり不正容疑者にも調査実施が知られてしまう可能性が高まります。そうなれば証拠隠滅、口止めなどの工作が行われ調査は失敗に終わります。こうした場合、不正発生が疑われる部署とは関係の無い広範な部門を調査対象にすることで核心の部署への調査をカモフラージュするのです。
 

2-3. 短期集中でスケジューリング

Eメール、パソコンの解析、帳票類等の文書などの証拠収集であれば、ある程度秘密裏に調査を進めることができますので、短期集中での実行への要求度は比較的に低くなります。しかし、一旦ヒアリング調査が始まればどんなに対象者に対して口止めをしたとしても社内に噂が伝搬する可能性は高く、そうなれば前項と同様、証拠破壊や口止めをされてしまい調査がたち行かなくなる恐れがあります。
これを防ぐためにはヒアリングは可能な限り短期間に集中してスケジューリングされるべきです。
 

2-4. 物的証拠収集と並行して行うこと

ヒアリングは社内調査の中でもっとも直接的な調査です。しかし相手は生身の人間のこと、記憶が薄れて曖昧であったり、不正実行者から口止めされていたり、上司への忖度が働いたり、調査担当者との相性が悪かったりなど様々な理由で正しい情報が得られない可能性も十分起こり得ます。このため社内の不正調査ではヒアリングだけに頼らずに、客観的な物的証拠の収集は必ず行わなくてはなりません。
内部通報者のヒアリングで得られた情報からまずは証拠収集を始めます。そして関係者へのヒアリングでは、その客観的証拠と証言を照らし合わせて証言の信頼性を確認し、得られた新しい情報からさらに核心に迫る証拠を収集します。不正容疑者は不正の事実を否認する可能性もありますから、それまでに集まった客観的物的証拠を材料にして嘘の供述の矛盾を突き自白へとナビゲートするのです。
 

3. 対象者により三つに分類されるヒアリング

不正に対するヒアリング調査は通報が端緒であれば、内部通報者→関係者→不正容疑者へとステップを踏み進める必要があります。そしてヒアリングの対象者によって質問の技法も変えなければなりませんし、関係者へのヒアリングでは誰を指名してどういった順序で実施するかも周到に計画することが求められます。本章ではヒアリングの対象者別に押さえるべきポイントや注意点などを解説します。
 

3-1. 通報者(被害者)へのヒアリング

内部通報者へのヒアリングは、被害者へのヒアリングとともに社内調査の過程の最初に行われるアクションです。
 

3-1-1. 通報者へのヒアリングの目的

その目的は企業のリスクマネジメントにおいて解明・解決すべき事案であるかどうかを判断するために

●通報内容が信頼して良いものか否か
●解明のための調査を実行すべきか否か
●調査開始となった場合の調査手法や調査範囲・規模の見極め
●不正が過去のものなのか現在も継続しているのか

を掌握するために行われます。
 

3-1-2. 通報事実が過去のものか現在進行形かは非常に重要なファクター

通報された不正・不祥事が過去に発生して既に終わっているケースでは、不正実行者を現行犯で立証することはできません。客観的証拠と証言の積み重ねでその不正を暴き処分に至るしか道はありません。既に証拠が破壊されているかもしれませんし、行為者の脇が甘ければ種々の証拠が得られるかもしれません。この場合調査に求められるスピード感はさほど高くありません。

一方、その不正が現在も継続して起こっているのであれば緊急度は非常に高くなります。
なぜなら、マスコミや捜査機関に不正の事実を知られて報道されてしまったりすれば、企業のコンプライアンス体制が問われ社会的評価の毀損を生じる恐れがあるからです。
このため調査の遂行とともにマスコミ等対外的な広報対応を並行して計画する必要も生じます。
また、調査や対応の仕方や手法は過去の不正への対応とはまったく異なり、現在行われている不正の容疑者を現行犯として特定することに主眼を置かなくてはなりません。まずは通報者・関係者へのヒアリングと物的証拠収集を早急に進めて不正容疑者を絞り込みます。そして、現在行われている不正を捉えるために、監視カメラ、不正現場での会話の録音、パソコンの操作ログの監視、フォレンジック調査、場合によっては不正容疑者の行動を監視する尾行調査などの体制も整える必要があるでしょう。
 

3-2. 関係者へのヒアリング

内部通報者へのヒアリングを経て関係者を特定し絞込み、不祥事に関連した情報をできるだけ多く収集することが関係者へのヒアリングの目的です。
収集された情報は不正容疑者へのヒアリングにおいて追及するための有益な材料となります。
 

3-2-1. 対象者の確定

不正・不祥事のヒアリング調査における関係者とは、実際に不正行為をした人物以外でその不正に関するなんらかの情報を持っていると推定される人をいいます。
この関係者を下記のような手順で洗い出してリストアップします。

1)内部通報者もしくは不正の被害者からのヒアリングに際して、
 「他に同じような情報を持つ人物がいないか、上司や部下は知らないか?」と
 質問をして情報源となる関係者を聞き出します。

2)並行して進める客観的証拠収集の中で、見積書・領収書等の作成者や承認者、稟議書の決裁者、
 Eメールの送受信者などから不正の情報や関連情報を知る人物を炙り出します。

3)不祥事が長期間にわたり行われていた場合には退職者へのヒアリングが必要なケースもあり得ます。
 

3-2-2. ヒアリング順序の策定

関係者に対するヒアリングについてはその実施順序の策定を慎重に計画しなければなりません。
なぜならば順序を安易に決定して実施することで、ストレートに不正容疑者に調査が伝わってしまい、口裏合わせや証拠隠滅などが起こる可能性があるからです。
ではどのような順序で進めれば首尾よく調査が進められるかを概説します。

1)まず部下から、そして上司へ
仮に容疑者が課長だったとしましょう。その上司である部長や取締役へのヒアリングが先に行われ、それらの人物が不正に関わっていたらどうなるか?まず不正に関する情報が聞き出せないことはおろか、容疑者の課長に対して確実に圧力がかかり証拠隠匿の工作が行われることは必定です。そうなった時点でその不正調査はかなりの確率で失敗に終わるでしょう。
逆に先に部下へのヒアリングを行った場合はどうでしょうか。その部下が不正に関するなんらかの情報を知っていたとして、そのことについて課長から圧力がかかる前であれば情報を引き出せる可能性は高まりますし、よほど強固な上下関係でなければ、黙秘・偽称までして上司を守る行動はしないはずです。

2)現在から、そして過去へ
通報された不正・不祥事が現在進行形であるかどうかの掌握が非常に大事であることは前述した通りです。そのため、関係者へのヒアリングも不正が現在でも継続して行われているかどうかを聞き出すために、今の関係者かつ部下からヒアリングを始めるべきです。
その関係者に不正への関与が無く、また不正を認知していないことが明確になった場合は同じポジションの前任者へ、そして現在の上司、その前任者へとヒアリングを進めるのが基本です。
 

3-2-3. 関係者へのヒアリングの諸注意

1)質問は自由回答法から入る
関係者に対するヒアリングではなるべく多くの情報を収集しなければなりません。
そのためまずは自由回答法を使い「はい、いいえ」などの回答範囲を設けずに、相手が自由に返答できる質問で行います。ヒアリングの結果、有効な情報が得られて第二次・第三次のヒアリング対象者へと深掘りされる過程では、個別質問でピンポイントな質問を取り入れて、より具体的な情報を得られるような質問設計に切り替えていきます。

2)ヒアリングの会場
対象でない社員に調査が極力知られないようにしなければならない為、クローズな会議室や応接室を使用するべきです。これはヒアリング対象者へのプライバシー保護への配慮も意識されたものでなければなりません。中小零細企業において、その社屋の構造上他の社員に知られないように調査を実施することが難しい場合には、社外の貸会議室やホテルの一室などの利用も検討するべきでしょう。

3)関係者には「協力してもらう」という意識が必須
関係者へのヒアリングはあくまでも協力してもらうというスタンスが必要です。
協力への礼から始めヒアリングの趣旨説明をきちんと行うことが肝要です。高圧・高飛車な態度であたかも尋問のような雰囲気にしてしまってはまともなヒアリングはできないと心得ましょう。

4)立会者の人数
威圧的高圧的になって関係者にプレッシャーを与えてはいけません。
このためヒアリングで立ち会う人数は5人6人といった大人数は避けるべきです。だからと言って1人だけでヒアリングを実施しようとすると、感情的になったり、証言を聞き漏らしたり、相手の表情の変化を見落としてしまったりといったことが起きかねません。インタビュー実行担当、対象者観察と進行コントロール担当などある程度役割分担をして2~3人で対応するのが望ましいです。

5)証拠破壊を回避し通報者を守る深慮を
趣旨説明が具体的過ぎると、不正調査実施の事実が不正容疑者に伝わる可能性が高まってしまい、証拠破壊に繋がりかねません。また調査開始の端緒を詳しく説明してしまうと内部通報者が誰であるかが推察できてしまう恐れがあります。この点も絶対に避けなければならず、十分に注意を払うべきです。

6)時間への配慮
ヒアリングの時間は十分に留意すべきです。もちろん聴取の内容により伸び縮みがある程度出てくることは仕方ありませんが、1回のヒアリングに掛ける時間は60分から長くても120分程度に留めるべきです。いつまでもダラダラと続き終わりが見えないヒアリングでは聴取を受ける関係者から不信を買ってしまい協力を得られにくくなってしまいます。
 

3-3. 不正容疑者へのヒアリング

不正容疑者へのヒアリングの目的は、前述したとおり不正行為に関する自白を得ることです。
自白を得ることの重要性には二つのポイントがあります。
第一に懲戒処分を科すにあたり、それまで収集した物的証拠(データ類、紙類)や関係者ヒアリングで得られた証言による証拠だけでは立件に不十分であることが多く、自白により証拠の信用性を確実にしておく必要があるからです。第二に再発防止の観点から、自白でしか得られない不正の具体的な犯行手口や動機が解明されなければ、再発防止のための対策や仕組みを作り上げることはできないからです。
 

3-3-1. ヒアリングの為の事前準備

不正容疑者へのヒアリングは、事前に収集した証拠や関係者の証言が出そろってから実施します。
そしてそれらの証拠を想定される不正事実のWho (だれが)、When (いつ)、Where (どこで)、What (なにを)、Why (なぜ)、How (どのように) にそれぞれ当てはめて整理してひとつのシートにまとめます。この作業により嫌疑事実の一つ一つに対する証拠を正確に把握し、それぞれの証拠の証明する力の強さ弱さを分析しておくことができます。
こうして事前準備を整えておかないと、対象者の反論や弁解に対応することができずに自白を引き出し損ねる可能性が高まります。
 

3-3-2. 不正容疑者へのヒアリングでの質問法

対象者がヒアリングの初期段階で不正行為を認めて自白するようであれば、自由回答法により不正の手口や動機など詳細を自由に話させる流れにするのが良いでしょう。当初否認していても不正を認めた時点から後は自由回答法に切り替え詳細を供述させることになります。
一方、否認を貫き自白を得られない場合にはどのように対処したらよいでしょうか。
こうした場合の推奨される戦略としては、対象者に否認・弁解をできるだけ多く語らせる中で、嘘を重ねさせボロを出させる方法があります。
ヒアリングのその場しのぎで吐いた嘘は本人の記憶には留まりにくく、後日同じ質問をすれば矛盾した回答となる確率が高くなります。こうなれば、個別質問に切り替えて次々にプロセス毎の具体的質問を投げかけてその場しのぎに嘘をつけずに自白せざるを得ない状況に追い込むのです。
それでも否認し続ける容疑者に対しては虚偽証言そのものを証拠化することが求められます。
既に得られている客観的な証拠に照らし合わせて明らかに虚偽である証言について、懲戒処分の際の判断材料となるように証拠として記録するのです。また、後に処分不服の申立てによる訴訟になった時でも、こうした証拠の積み上げはリスク軽減に役に立ちます。
 

3-3-3. ヒアリングにおける無告知録音の可否

社内調査のヒアリングにおいて不正の事実を自白した不正容疑者が、後の裁判などで一転して供述した内容を否認し自白の信用性が問われるケースがあります。こうした場合、ヒアリングが録音されていれば当初の供述の信用性を証明する有効な武器となります。では社内調査のヒアリングにおいて不正容疑者に告知せず秘密裏に録音することは問題ないのでしょうか。
面談や聴取などで居合わせた人物双方への事前の了承を取らずに盗み聞き録音する行為 (盗聴) は違法です。有線電気通信法、電気通信事業法、電波法などの法律により禁止されています。
しかし、一方の当事者である調査担当者が了解の上で不正容疑者には知らせない「無告知録音」はこれを規制する法律は無く違法とはなりません。
 

4. まとめ

社内で不正・不祥事が発生してしまえば社内調査は必ず実施しなければなりません。
そしてヒアリング調査も絶対に避けては通れないプロセスです。
しかし、物的証拠の収集とは違ってヒアリングは人対人の非常にセンシティブな調査です。関係者招集の仕方、質問の設計、感情のコントロールなど、ちょっとしたミスが生じただけでも事態が混乱に陥る可能性がある「両刃の剣」と心得ておくべきです。内部通報などで不正が発覚しても慌てず場当たり的な対応にならないよう、周到な計画と準備で取り組むようにしましょう。

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