従業員満足度調査(ES調査)を成功に導く7つのポイント

2018/03/20

ES調査

去る2017年7月10日、帝国データバンクは「人手不足倒産、2.9倍に増加」と題したレポートを公表し、日経新聞その他がこぞって取り上げました。2017年上半期の倒産のうちで人手不足を理由としたものを、2013年の同じ時期に比べてのことだそうです。また同じ2017年の年末には、国内の完全失業率が24年ぶりの2.7%にまで低下するなど今後、人口減少と併せて採用難の拡大が予想される中、魅力的な職場であることの重要性が高まっています。
職場の魅力を測る直接的な方法である従業員満足度調査ですが、実施や活用がうまく出来ていない、あるいは形だけで終わっている会社が少なくないようです。これから述べる7つのポイントを押さえて、是非、従業員満足度調査を活きたものにしましょう!

 
1. 従業員満足度(ES:Employee Satisfaction)の重要性
1-1. 従業員満足度調査(ES調査)とは

● 従業員満足度調査(ES調査)とは
「読んで字の如く」ですが会社が自社の従業員に対して、経営/マネジメントのあり方、職場の環境/組織風土、会社の人事制度や労務管理体制、部門運営、個人の目標や希望と業務の整合などについて、広く質問形式で調査を行うものです。
質問事項は様々な労働研究の理論を参考に大きくは動機付け要因と衛生要因の二つの側面から、上記のようないくつかのカテゴリーに分けて構成することが多いようです。

● ストレスチェックとの違い
ストレスチェックは全く新しい調査で、いわゆるブラック企業の問題や働き方改革の機運の中、2015年12月の労働安全衛生法の改正を期に、従業員50名以上の企業に毎年1回の実施が義務付けられた、心身のストレスの状況を調べるための、一定の基準となる項目を含めての調査です。
ES調査と重複する部分もありますが、ES調査に一般的に含まれる職場の仕組みやあり方等への評価はあまり含まれず、逆に細かな体調等への設問が多く含まれており、両方の主旨を満たそうとすると設問が多くなりすぎることもあり、現状では別々に実施するのが主流のようです。

● 調査実施のイメージ
【実施時期】 4月からの事業年度の開始が落ち着き、上期の終了が見え始めた夏ごろか、年度末を控えた1-2月に行われることが多いようです。

【実施期間】 ES調査に慣れた企業では実施の決定から実行まで1ヶ月弱、実施も調査項目の設定から報告までで1-2ヶ月というところが多いようですが、初めて導入される企業では、社内合意等の準備に2ヶ月程度、終了後の分析・報告と事後の対応の決定にも1ヶ月程度の余裕が必要なようです。

【担当部署】 ほとんどが人事部・総務部等が責任担当部署となっていますが、企業によっては経営企画や社長室などが担当する場合もあるようです。

【費用感】 人数/個別に行う部署の数などにも拠りますが、50~2、300名程度の中小企業では15万円~50万円程度で実施される企業が多いようです。

 
1-2. 従業員満足度(ES)は経営の好循環・悪循環のかなめ

従業員満足度 (ES) の重要性は、バブル崩壊後に終身雇用制が徐々に壊れ始めたころから高まっていましたが、特にこの数年、顕在化してきた労働者不足とその対策の一つとしても、改めて関心が高まっています。なぜ、従業員満足度の重要性に対して、今ここで関心が高まっているのでしょうか。

それは従業員満足度が経営の重要な要 (かなめ) となっているからです。下図に示すように、従業員満足度の向上あるいは低下は、順に意欲や生産性の向上や低下に影響し、結果的に経営成績全体に影響するのです。

少子高齢化を機とした採用難が既に顕在化しつつある今、24年ぶりとも言われる失業率の低下とともに、従業員の満足から経営の好成績への循環が求められているのです。
 

<図:従業員満足度調査を起点に、経営の指標はつながっている>従業員満足度は経営の経営循環の要
従業員満足度は経営の経営循環の要
 
1-3. 先行指標中の先行指標としての従業員満足度(ES)

経営においては様々な指標が用いられます。上記に挙げた中で、従業員満足度 (ES) や顧客満足度 (CS) が職場環境や経営成績より上に書かれているのは、一つには影響を与える順番、ということもありますが、もう一つには、「先に現れる」(=先行指標である) ということもあります。その意味でも、従業員満足度を年に1回程度実施し、満足度が低い点については対策を施してこれを高く保つことが、経営成績の維持、向上につながるのです。
 

1-4. 伸びてきた従業員満足度調査(ES調査)の実施率

一般財団法人労務行政研究所が、3年ごとに実施している「人事労務諸制度実施状況調査」でも、従業員満足度調査 (ES調査) を実施している企業が増えていることが確認できます。

冒頭のように「採用難」が懸念される今日では、従業員満足度を意識した経営の重要度もまた、高まっています。 

<グラフ:増加してきた従業員満足度調査の実施割合>ES調査の実施推移
ES調査の実施推移

(人事院平成28年度年次報告書 (第1篇第2部補論2:http://www.jinji.go.jp/hakusho/h28/1-2-05-2.html) より作成)
 
1-5. 内製(自社で行う)と外注のメリット/デメリット

近年では、職場でのパソコンの普及、インターネット環境の普及と、さらにそれらの状況を利用した調査会社のサービス提供により、安価で容易にアンケート調査が行えるようになっています。いわば「従業員を対象としたアンケート調査」であるES調査も例外でなく、複数の会社からWebを中心としたES調査が提供されていますし、ネット上での汎用的なアンケートの仕組みを利用すれば、さらに安価に実施することさえも可能になりました。

しかし上述のように、ES調査は経営上の重要な要素の一つです。「安価」で「容易」に実施できるからと「安易」に実施すれば従業員の満足が適切に測れないばかりでなく、間違った示唆や間違った施策に繋がり、ES調査への失望から、果ては経営的な「負のスパイラル」さえ生じかねません。

<内製と外注のメリット・デメリット>ES調査内製と外注
ES調査内製と外注
 

表のように内製/外注にはそれぞれメリット・デメリットがあります。以下で従業員満足度調査に必要なステップとポイントを押さえてから、内製するか、外注するかを検討しましょう。
 

2. 従業員満足度調査(ES調査)の流れ
2-1. 従業員満足度調査(ES調査)の基本的なフロー

まず以下で従業員満足度(ES)調査の基本的な流れを概観しましょう。
ここでは全体設計と設問設計を、分析、報告と改善案作成を一つの段階として捉えましたが、それぞれの項目を一つの段階として細かく分ける考え方、次回の改善確認は次回の調査としてとらえる(今回調査の7番目としてみない)考え方もあります。

<図:実施の基本的なフロー>ES調査のフロー
ES調査のフロー
 
2-2. 7段階、7つのポイント

ES調査の基本的な流れを確認したら、各段階での取り組み内容とポイントを確認します。
 

2-2-1. 実施についての事前合意

ES調査を実施する際~特に初めて実施する場合~には、少なくとも各部門長レベルまで、必要性の理解の浸透と、実施についての合意を形成します。

<取組内容>
新しいことや、業績や報酬との連動が見えにくい経営施策については、従業員からの抵抗や反発が生じがちです。部門長レベルが質問や否定的な態度に対して、ある程度説明できるようになっていることが求められます。
想定する時期や手順はもちろんですが、この段階で重要なのは「なぜ (時間や労力を割いて) 実施するのか」(必要性) について、目的や重要性についての共有の認識を持ち、そのうえで実施に合意することが重要です。

<ポイント>
 ● 実施について部門長レベルまでの事前の理解と合意を得る。


新しい試みであったり、日常業務の一部としての理解が十分でない場合、部門長レベルでの指示や説明といった対応が生じます。ES調査の対象となった部門の長が重要性を理解していなければ、部下に効果的な指示や説明ができません。結果として、回収率が低かったり、十分に意見が反映されない調査となってしまうのです。
初めて行う場合は特にそうですが、継続的に行っている場合でも、過去に施策に反映されて効果的であった事例なども交えつつ、重要性と全体像の確認を繰り返し行いましょう。
 

2-2-2. 企画(全体設計)・アンケート設計

経営幹部での実施への合意が整ったら、次はES調査全体の企画、実際のアンケートの設計を行います。

<取組内容>
実施時期や対象部署、対象者や配布や回収といった具体的な手順のほか、予算や担当部署、自社の事業内容や経営環境、現在の課題認識に照らして継続的にモニタリングすべき指標、今回特に従業員の反応を見るべき施策、要因を探るべき問題等があるかなどの論点整理行ない、全体像としての「企画」(全体設計) を行います。

そのうえで、回答する従業員の負担や回答に際しての集中力、思考の流れによるバイアス等の排除も考慮しながら、経営課題の仮説設定とその検証のための具体的な設問項目、構成・配置を中心とした「アンケートの設計」を行います。

<ポイント>
 ● 自社の組織構成を見て、適切な対象範囲を区分して行い、課題認識や経営上の仮説と整合しているかよく吟味し、必要に応じて改良を施すなどして最適な設問を用いる。


ES調査は基本的には全社員を対象として行うの事が多いと様ですが、企業規模が大きくなり、性質の異なる事業部や子会社などがある場合には、事業部単位、会社単位などのくくりで行う方が合理的な場合もあります。また極端に小さい単位、例えば30名前後かそれ以下などの企業や部門単体で行う場合には、例えば「管理者」であったり、「性別」や「年齢階級」、「在籍年数」などが極端に偏り、それらの属性での分析が意味を持たなくなったり、偶然偏った回答となる可能性 (専門的には「統計的に有意でない」などといいます) があります。このため、自社の組織構成を見て、適切な対象範囲を区分して行うことが重要なポイントです。

また自社の事業や環境、部門毎のそれらを考慮しないで、教科書やネット上のテンプレートをそのまま利用した場合には、設問内容が従業員の認識とずれて正しい回答が得られなかったり、項目そのものが実態と合わないこととなり、結果として本来抽出されるべき経営課題が見逃される要因となる場合があります。このため、外部からのテンプレートを用いる場合でも、そこで設定されている設問が自社の課題認識や経営上の仮説と整合しているかをよく吟味して、必要に応じて改良を施すなどして用いることが重要なポイントとなります。
 

2-2-3. 実施・回収

調査対象や時期、アンケート内容が固まったら、いよいよ実施・回収に移ります。

<取組内容>
職場でのパソコンやインターネットの普及の程度の違いや、事務系の業務であるか工場や店舗などの現場の業務であるかなど、回答のために一時的にでも手を止めることができる業務か否かの違い、さらには自宅でスマホやネット環境の利用が普及している職種かどうかなども考慮して、実施・回収の手順を定めて行います。

また回収に当たっては、匿名で実施する場合には回答した個人が特定されない配慮をしながらも、未提出の従業員を判別し、メールや上長による個別の督促が可能な仕組みを考えることも併せて行います。

<ポイント>
 ● 実施や回収について、細やかなアナウンスで回収率を上げる。


幹部層では、ES調査の実施に合意が取れていたとしても、対象となる従業員には、通常業務に割り込む「お仕着せ」の施策のように受け止められることがあり、適切な回収や回答につながらない恐れがあります。実施・回収段階では、幹部での合意に加え、対象となる部門・部署の従業員全体に対しても、目的・主旨や期間・手段などの概要をあらかじめ何度かアナウンスし共有することで、重要性の理解や、業務上の回答時間の事前の確保などの余裕を持たせます。また、回収期限にもある程度の余裕を持ち、期限の直前にも実施担当箇所からのメールや部門長からの口頭での伝達などで、期限までの提出を促しておくことも、回収率を上げ、有効な調査とするためのポイントとなります。
 

2-2-4. 集計・分析・報告

無事に回収がすんだら、集計と分析を行い、経営層他に報告します。
報告に当たって、分析結果だけでなく、そこからの改善案までも付加する場合もあります。

<取組内容>
回答数の単純集計や、それが部署/全体に占める割合を集計する比率分析、部署や職種、職位、性別や年齢階層等の回答者の「属性」毎の傾向を見るクロス集計 (クロス分析)、継続的に行っている調査やその項目であれば、時系列分析などが基本となります。
また、ある (満足度などの) 結果と、一定の項目との相関性、施策とその従業員の評価 (受け止め方) の相関性について回帰分析を行う等すると、新たな、あるいは重要な課題の発見や施策への示唆を得らえることがあります。
さらに、定量的な分析以外にも、記述式の自由回答を集めて分類したり、吟味することでも、やはり経営上の課題の発見や示唆を得られることがあります。

これらの分析や示唆は、特に経営幹部への報告として取りまとめるとともに、関係する部署や経営幹部とともに、改善案も作成し、報告書に添えると、その後の議論が進みやすくなります。

<ポイント>
 ● 単純な集計だけでなく、回帰分析や自由記述の分析吟味も欠かさない。報告には改善案も添える


企画段階・設計段階で構想がよく練ってある場合、実施すべき分析や検証すべき課題はある程度想定されていることになりますが、その他にも、想定していなかった新たな事象・傾向が生じていないか、目を凝らす必要があります。
一方で、これらの想定や仮説がない、あるいは先入観で凝り固まっている場合、さらには分析が通り一遍で、深堀されていない場合など、折角のES調査が生かされることなく、毎年簡単な集計結果のみ、ということも起こりえます。事前の構想と、それにとらわれない自由な発想、分析への工夫がポイントとなります。
また報告する際には、実施箇所としての改善案を添えその後の議論・調査の活用の糸口とします。
 

2-2-5. 社内フィードバック

集計・分析を経営層に報告し、改善の方向性が見えたら、実施からあまり時間が経過しないうちに、全社へのフィードバックを行います。

<取組内容>
フィードバックでは、集計・分析の結果はもちろんですが、経営層や関係部署と合意した改善の方向も併せて提示します。
このフィードバックを行うことで、経営層をはじめ会社全体がES調査を重視していること、単なる調査に終わらせずに経営に反映していくことのメッセージになるとともに、集計・分析結果の共有そのものが、今後の施策の背景として、全社的な認識のベースともなります。

<ポイント>
 ● 取組みの方向性を織り込んで、早めにフィードバックをする


ES調査を実施したものの、十分なフィードバックがなされない場合、新たな不満や経営不信の要因となってしまうことがあります。

また、フィードバックを行っていても (例年同じような) 簡単な概要の要約と簡単なコメント、ましてや経営にとって都合の良い点だけのフィードバックでは、従業員が「形式的」なものであると受け止めてしまい、かえってマイナス要因となってしまうことがあります。

時間の成約のある中でも、調査結果の全貌を知ることができる経営層が何を問題ととらえ、これからどのようにしていこうと考えているのかをきちんと織り込んだフィードバックとして伝えることが、ES調査を活きたものにする重要なポイントとなります。
 

2-2-6. 改善アクションの実行

全社的にフィードバックを行い、課題点の共有と方向性の提示を行った後は、実際に改善施策の実施を行います。

<取組内容>
改善施策は、具体化を進めるうちに、フィードバックで示した方向性や案とは異なる形になる場合も少なくないですが、ES調査をもとに改善施策を実施することが、冒頭に述べた経営の好循環を実現していきます。

<ポイント>
 ● 改善策を必ず見える形で実行し、成果を共有する


ES調査を行い、従業員にフィードバックを行ったら、その中で改善すべきこととした項目について、きちんと施策の実行を行わなければなりません。これも、立派な方針を示してもいつのまにかうやむやにしてしまうようでは却って経営への不信感を助長してしまうことになります。

リソースの制約等で目に見える成果がなかなか出難いこともありますが、目に見える形で改善策に取り組み、その内容や成果、あるいは障害の理由などを明らかにすることで、経営層と従業員層の信頼関係構築につながります。
 

2-2-7. 次回ESでの改善効果の確認

最後に、⑥で述べた改善施策のうち、主要な施策については、施策の発端となった設問項目について次回の調査で改善傾向を確認するとともに、非常に重要な施策であった場合には、②のアンケート設計の際に、重要な施策としてより直接的な設問項目を新たに設けるなどして、改善の効果の有無や程度を確認し、さらに次の施策へとつなげていきます。

<取組内容>
2回目以降は、前回調査の結果を受けて実施した施策について、次回の調査の設問に織り込む。

<ポイント>
 ● 改善施策の効果が測れる設問を、次回調査に盛り込む。

 

3. まとめ

ES調査の経営上の重要性や、実施のためのポイントについてまとめてみましたが、ご理解いただけたでしょうか。今回は本当に重要なポイントのみについてまとめましたが、アンケートの設計、実施、分析などは、非常に細かなテクニックやより良いものにするポイントが多々あります。

時間も含めたリソースが豊富にある場合には、自社でノウハウを積み重ねていってもいいですし、逆に人材や時間的なリソースに制約がある場合は、思い切って外部の調査会社・コンサルティング会社にお願いし、ノウハウやテクニックを利用させてもらうのも一手です。

重要性と基本的な流れを踏まえたうえで、自社の状況に合わせて最適なES調査を実施し、よりよい経営に活かしてください。
 

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