出資やM&Aの担当者、責任者が知っておきたい企業調査の基礎10項

2018/01/30

出資やM&Aの担当者、責任者が知っておきたい企業調査の基礎10項

事業提携や出資、M&Aでは相手先企業の調査を十分に行わないことが、大きなリスクを生み、最悪の場合には、案件そのものの「失敗」という結果を招きます。

レコフ社の調べでは、2017年の日本企業のM&Aは11月末の時点で前年を上回る2,700件となり、6年連続で増加し、リーマン前の水準をほぼ回復しています。一方で、M&Aの成功率は5割以下、失敗のうち1割程度は「予定していなかったリスクによる」失敗とも言われ、この大きな要因は、もともと投資等の専門でなかった部署、担当者が、相手先企業について十分な調査ができなかったことによります。

どの案件も時間や人手、調査費用等に限りがありますが、ぜひここで挙げる10項の企業調査の基礎項目を押さえて、案件の成功につなげましょう。

 
1. 十分な調査を心がけよう
1-1. 提携、出資、M&Aのための調査時間は限られています

スピードアップのために、システム開発の手法が従来の、前に十分に計画してから構築に入る形(いわゆるウォーターフォール型)から、構築しながら要件を詰めていく形(アジャイル型)の開発が主流になったように、ビジネスの他の場面でも、素早い判断が求められています。国内M&Aの4割は3ヶ月以内に、1割近くは1ヶ月以内に成約しているとのデータも有ります (M&Aファイナンス新聞社) 。
M&Aでも、そもそもの目的となる戦略の構築と関連する調査、条件交渉などを同時進行的に進める「並走型アプローチ」も生まれてきています。

 
1-2. 一方で、調査不足は案件の失敗要因となります

M&Aの失敗の三大要因は① 戦略の誤り (目的や成果を読み誤っていた)、② 事前調査 (デューデリジェンス) の失敗、③ 成立後の統合の失敗といわれます。
③の「統合」を伴わない提携や出資の案件でも、競合企業の競争等による時間的な制約などから十分な検討を出来ない案件が増加し、①の戦略の誤りで期待した効果が得られないもの、②の調査不足が原因で「こんなはずじゃなかった」事態に陥り、問題発生後に原因を手繰ってみると、提携や出資の決定をした時点で本当はわかっていたはずの、あるいは予測できていたはずの要因によるものだった、という事態も少なくありません。

 
1-3. 相手先の企業をしっかり調査することが重要です

大企業は取締役会などでの案件管理や投資委員会での投資管理など、進め方も含めた案件の内容に目を光らすルール、仕組みを設けています。
スピードが求めらえるビジネスの環境は変えることができませんが、案件の検討に必要な企業調査の基礎的な項目を知り、可能であれば該当事項を「すべて」検討、たとえすべてを検討することが時間や予算から不可能であっても、重要度を判断しメリハリをつけ、ポイントを抑えることで、将来のリスクの発生や被害を最小限にしましょう。

 
2. 企業調査の3つの主体と情報量の差異

企業調査の種別と3つの主体

企業調査は、その幅、深さ、手法について様々なバリエーションがあります。
もし営業担当者なら、訪問や取引前の代表者や所在地、業種業態や業容の基本的な情報調査を、経理や財務の担当で月々の取引の決済に関わる立場なら、帝国データバンクや東京商工リサーチにといった調査会社による「与信調査」「企業信用調査」を真っ先に思い浮かべるでしょう。
またM&Aや投資のプロであれば、大手法律事務所や監査法人に委託して行う精細な調査「デューデリジェンス」のことと考えるでしょう。

 
実施主体別による調査の情報量と費用イメージ
実施主体別による調査の情報量と費用イメージ
 
2-1. 独自に行う公開情報からの調査

インターネットや四季報、東洋経済などの企業情報誌、上場企業であれば投資家向けのIR情報などから独自に情報の収集が可能です。まず対象先企業の基本的な情報の収集に適しています。自由度が高く費用もかかりませんが、情報の収集力や分析力は社員や担当部署の力によりけりで、一般的には調査会社や専門家の調査には劣ります。

 
2-2. 独自に行う個別開示情報の調査

また協業やM&Aを前提に、守秘義務契約を経て直接開示される情報には、開示の目的や企業間のスタンスにもよりますが、かなりの量の情報が開示されるのが一般的です。
案件の規模、重要度、相手先企業の業種や自社との関係性にもよりますが、この開示情報を社内の営業、販売、製造、法務、総務、人事といった各部門が協力しながら精査し分析する事で、目的に足る調査・分析を行うことができる場合があります。

 
2-3. 調査会社による既存調査 (企業信用情報/与信情報)

自社に企業調査の人手や時間、ノウハウが無い場合や、与信の確認など様に複数の企業について繰り返して同じ基準で情報を得る必要がある場合、あるいは対象企業が非上場で積極的に情報開示をしてしない場合など、大手調査会社による「企業信用情報」(与信調査) などの既成のレポートが、ある程度まとまった情報を素早く入手するのに適しています。ただし、基本的には対象となる企業が開示したい、開示しても良いと判断した情報のみであることが基本となります。

 
2-4. 調査会社へ依頼する個別調査

企業信用情報を大々的に収集、発行している調査会社が、問合せの多い企業についてあらかじめ詳細なレポートを用意していたり、オーダーメードでの追加の調査に応じていたりする場合があります。
また、専門調査会社が独自の調査手法により、依頼を受けて行う調査もあります。
これらは企業自身が開示した情報に加え、取引先等の関係先へのヒアリングによる情報なども含まれ、より情報量が増えますので、調査の目的に応じて費用対効果を考えながら依頼することになります。

 
2-5. 専門家によるデューデリジェンス

投資運用会社や仲介事業者を使った大掛かりなM&Aでは、法律面でのリーガル・デューデリジェンス、財務面や会計面でのフィナンシャル・デューデリジェンス、事業面でのビジネス・デューデリジェンスなど、それぞれ弁護士や会計士、専門コンサルタントなどを使い、それなりの費用を掛けてでも、将来的な投資家や株主への説明責任の遂行にも耐えうる詳細な調査が行われる事が一般的です。

 
3. 押さえておきたい企業調査の10項目と判断のフレームワーク

対象先企業についてのどのような面を、どの程度調査すべきかには、自社の立場や個別の案件で様々ですが、ここでは業務提携を検討している相手先企業、あるいは提携等を前提に出資を検討している企業、という想定で、基本的な調査項目と、見ておくべきリスクについて考えてみたいと思います。
 

3-1. 押さえておきたい企業調査の10項目

前項のように、調査を独自で実施する場合、調査会社等の情報を買う、あるいは依頼する場合、専門家によるいわゆるデューデリジェンスを行う場合がありますが、明らかに不要な場合を除き、基本的な企業調査の項目として、以下の10項目を押さえておきましょう。
また、調査会社を使う際にも、不足する部分は独自で情報を収集し調査するか、部分的に専門家を起用するなど、必要な情報がそろうように調査しましょう。
 

<外部との関係に関する調査項目>

外部との関係に関する調査項目
外部との関係に関する調査項目

※1:主に海外案件において、特定の国や国際的な地域での紛争や固有の制度風習による市場の情勢やリスクを「地政学的」な側面として検討し、特にリスクについて「地政学リスク」や「カントリーリスク」として扱うことがあります。

 

<企業内部に関する調査項目>

企業内部に関する調査項目
企業内部に関する調査項目
   
3-2. 対象企業の調査の検討・判断のフレームワークの例

基本的な調査項目を押さえて調査を実行、検証や統合、分析を加えて報告書を作成したら、社内で検討のためのフレームワークに落とし込みます。
それぞれの調査項目の実施、確認、評価をどの部署が担当し、誰が権限者として確認、判断、決裁を行うのかといった全体像を決めておくと、そもそもの成果が期待と違ったり、リスクの存在に気づかなかったりという“想定外”の事態の多くは避ける事ができます。

 
内部の案件検討フレームワークの例
内部の案件検討フレームワークの例
 

Topics : 話題のESG投資の企業調査

2017年10月18日の日経新聞に「ESG投資、市場の3割に 環境配慮や社会性を評価」との見出しが躍りました。投資残高2,600兆円、世界運用資産の3割!だそうです。
年末の12月19日には日経新聞グループの株式会社Quickが、12月21日と25日には格付投資情報センターが立て続けに、それぞれESG投資への参加や支援を謳う1面広告も掲載されました。
ESGは環境 (Environment)、社会 (Social)、企業統治(Governance) の頭文字で、かつてのSRI (Social Responsibility Investment「社会的責任投資」) の概念に、より明確に「企業統治」の観点を加えたもので、国内最大のファンドともいえるGPIF (年金積立金管理運用独立行政法人) も既に1兆円をESG投資として行っていて、さらに3兆円までの積み立てを目指しているそうです。

GPIFのホームページでは、「ESG投資の取組み」「ESG指数の採用」といった内容が詳しく紹介されていて (https://www.gpif.go.jp/investment/esg/)、現在ではおもに「ポジティブスクリーニング」を中心とされているとのことですが、世界的潮流では法令違反や社会的規範と不整合を重視する「ネガティブスクリーニング」が主流とのことです。
http://www.gpif.go.jp/operation/committee/pdf/kanri02iinkai1179.pdf

今後企業が外部の資金を得る際に、自社の事業や企業統治はもちろんの事、提携先や出資先が金融機関のネガティブスクリーニングに該当しないように、あらかじめチェックしておくことも重要になると考えられます。そのような観点からも、提携先や投資先が法令や社会的規範に違反するリスクが無いか、内部の企業統治がしっかりしているかも、きちんと確認しておきたいものです。
本編記事では企業調査の基礎的な10項目について述べましたが、日本や世界の投資の最先端は、単に社会的責任や環境への配慮、そしてその裏付けとしての企業統治までも、高いレベルで調査・確認してから行われます。皆さんも自社の出資や提携の際の企業調査の参考にしてみてください。
 

4. 対象企業の調査不足がトラブルになった事例

対象企業の調査を十分に行わなかった結果、トラブルを招いてしまう事例は後を絶ちません。
逆にきちんとした調査を徹底している企業には、大きなトラブルに合うことなく、安定的に事業を進めている例が多いようです。

 
4-1. 不十分な情報で判断を急いだA社が、債権者協議に巻き込まれた例

~背景~
東証一部上場のA社は、今後の事業の成長のため、内部に専任の投資管理部門を設けて持ち込まれる出資・業務提携案件を選別し、事業評価を行い、先端技術や商品の販路確保のための出資を行っています。

~経緯~
ある先端技術開発のX社との案件が浮上しました。
同業他社との競り合いになりましたが、見事打ち勝って出資者となっての事業提携を成約しました。ところが出資後、なかなか予定していた技術開発が進まず、ヤキモキしているうちにX社の粉飾経理が発覚。慌ててX社の経営者他に関する追加の調査を行ったところ、この代表者は過去にも同様のベンチャー会社を立ち上げ、やはり大手の上場企業に所有権の大半を譲渡、しばらく経営者にとどまっていましたが、同様の粉飾を起こして退任していたことが明らかになりました。
その後A社は、債権者間の資金回収の協議・競争に巻き込まれて行くこととなりました。

~反省点~
A社が事前にX社社長の経歴、特に退任理由を十分に確認していれば、X社の財務状況や技術開発の状況にも慎重な検討を加えていたのではないかと悔やまれますが、特に競合他社との時間的な競争の中で情報収集・リスク検討がおざなりになり、このような結果となりました。
また、そもそも技術開発が進まないのは、その事業性が充分に検証されていなかった事が原因でした。 

不足していた調査項目:⑥ 財務状況、⑦ 事業性、⑧ 経営(者)に関する調査

 
4-2. 安価でスピーディだが不十分な外注調査を起用した結果、やり直しが必要になったB社

~背景~
投資運用会社で、大手上場企業と金融機関の合弁会社として投資運用業を営むB社は投資部門のほとんどのメンバーを銀行や証券会社出身のメンバーで固め、主に企業再生投資を、案件の発掘から実行管理、最終的な資金回収 (EXIT) までを一貫して行う投資の「プロ」集団を形成しています。

~経緯~
投資担当者は一連の手順に沿ってある投資案件を検討、必要な調査もほぼ済ませ、有望な投資案件として立案の寸前までこぎつけていました。
調査会社の選定は、一定の範囲のもとで担当の裁量に任されており、期末までの案件成立のためもあって、業界でも「安価でスピーディ」との評価のある調査会社を起用しました。
ところが事前の案件の検討会議の席上、出席の役員から「そういえばこの経営者、親会社の検討過程で過去に問題になった人物と同一人物でないか」との指摘が出て、別の調査会社を使って再度やり直した結果、当初の調査では「該当無し」であったものの、再調査ではこの投資予定先の経営者に問題行動があり、資金流出を伴ったとみられる不適切な交友関係が明らかになりました。

~反省点~
プロ集団であり、リスクに対する認識もフレームワークも整っているB社ですが、本件については再生案件としてのコスト削減と時間短縮のために、業界でも「安くて早い」事が評判の調査会社を用いてしまい、結果として再調査が必要になり、別の案件を探さなければならない結果にはなりました。
幸いにも、リスク評価についての組織的なプロセスを経る中で「指摘した役員の方の記憶力」というギリギリの点で難を逃れる形となりました。

不足していた調査項目:④ 取引先の評判、及び⑧ 経営(者)に関する調査
 

 
4-3. 双方合意がゆえに不十分な調査で案件を進め、M&Aが直前で振出しに戻ったC社

~背景~
中堅の事業会社C社は同業で個人企業であったY社と承継がらみの吸収合併の交渉を進めていました。

~経緯~
経営者同士が旧知であったことから順調に話は進み、買収資金の調達について金融機関とも大筋の合意ができ、あとは実行を待つだけ、というところまで来ていました。
しかし、契約の直前になってY社が貸借対照表に計上されていない多額の未払い残業代を抱えており、一部の従業員を中心に訴訟の動きがあることが判明しました。

長年の未払いの金額は数千万円に上ったため、C社にもそこまでの資金的余裕はなく、金融機関も買収資金の融資の増額に難色を示したために、買収契約の条件を一から見直すことになりました。
その後、事業計画の見直しなどを含めて半年以上の後に最終的にM&Aを進めることができましたが、Y社の労務管理が整っていなかったために、未払い残業代の正確な算定に特に時間を要し、外部専門家の費用や双方の経営陣、担当者の時間という形でのコストを二重三重に無駄にすることとなりました。

~反省点~
もともと双方が合意して進めていたために同種の案件の経験がない両社が独自の調査である意味「安易に」案件を進めてしまい、問題意識を持って進めていれば早期に明らかにできていたはずの問題の発見が遅くなり、特に時間や労力といったコストに関して多大な損失が生じることになりました。

このように、事前の調査が十分でなかったために、当初の目的を果たせなかったり、やり直しの手間が生じたりといった事態に直面する企業がある一方、半世紀近い業歴と1千億円の売上を誇る上場企業で不動産デベロッパーのD社は、一定規模以上の不動産の取引の際には必ず取引先について登記や過去のトラブルの報道を調査会社に依頼して確認することで、取引先としての適正性を確認、リスクのコントロールを確実なものにして事業を順当に拡大してきています。
同様に、国内有数のファンドを運用するE社も、投資予定先の履歴や風評に関して、常に費用をかけて外部調査会社を使ったスクリーニング調査を欠かさず実施し、大きなトラブル無く事業を継続しています。

不足していた調査項目:⑥ 財務状況、⑨ 組織・内部体制に関する調査
 

 
5. 調査をリスクコントロールに役立てる

調査をするのは、提携や出資の効果を測ることももちろんですが、重要な目的の一つが、案件にまつわる”リスク”をコントロールする、というものです。対象先の商品を独占的に調達したい、販路や客層を使わせて欲しい、ノウハウを移転したい、、、案件の目的はよく目に見えて当然です。
一方で、潜在リスクはもちろん、顕在化しているものでさえ、リスクに対しては目をつぶってしまい、見え難いものです。とはいえ、リスクがあるからといって全ての提携話や出資案件を断っていては、事業の成長性を損なう恐れがあります。調査の基礎項目を漏らさず、顕在、潜在のリスクを事前に把握して、リスクコントロールに役立てましょう。
有効なリスクコントロールのためにはリスクに対する姿勢、手続きを社内であらかじめ整理し、規程やマニュアルに落とし込んでおきましょう。
見落としや逸脱、個人への過剰な責任負担などを回避して、組織的なリスクコントロールが可能になり、リスクから目をそらすことなく、案件を有効に生かせるようになります。

リスク対策のステップの一例は以下のようになります。

 
リスクコントロールのフレームワークの例
リスクコントロールのフレームワークの例
6. まとめ

提携や出資の対象企業の調査は、案件のシチュエーションによって、その幅や深さはさまざまです。毎回不必要な調査までをすべて行うのは時間も費用も無駄ですが、必要な調査を行わないことは、そこに大きなリスクをはらむことになります。企業調査の基本的なフレームワークを念頭に置いたうえで、必要十分な調査を行うよう心がけましょう。

“基本的な調査項目を踏まえた最適な調査で、リスクのない案件を実現しましょう!”

 

本稿のまとめ

・自分で行う、調査会社から情報買う、専門家に頼む、を使い分ける
・基本的な調査の10項目を理解したうえで、案件に必要十分な項目を調べる
・調査結果は社内で検討のフレームワークを作って検証する
・調査結果はリスクコントロールに役立てる

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・各分野のデューデリジェンスでも洗い出せない買収先のネガティブ情報。
・テーマを絞って深堀りすることで炙り出せるケースは沢山あります。
・お客様の抱える状況や必要な情報に応じてカスタマイズした調査をご提案いたします。

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