業務中の怪我で会社と争うベテラン社員の監視

2024/04/22

≪依頼背景と現場下見≫

201X年秋、我々調査員2名は、明日朝からの調査現場へ向かうため、
大阪の事務所を昼過ぎに出て広島方面へ社用車を走らせる。

目的地は市街地から外れたのどかな住宅街である。
住宅地図に記されている対象宅の立地条件は、監視困難であること極まりないであろうと思われる。
現場へ向かう車の走りは軽快とは程遠く、車内の空気も重い。

今回の対象者は、機械製造会社の工場に勤務する50歳代男性A。
業務中に同僚社員のミスが原因で負傷。会社に対し巨額な賠償請求を迫るも認められず、
不服として訴訟を起こし現在は自宅で療養中の身である。

これに対しクライアントである会社側は、大したケガではないと真っ向から対立。
本人の申告通り外出もままならない状況であるのか?その事実解明が今回の調査の目的である。
調査期間は、午前7時から午後7時迄の12時間を、最長1週間と依頼されている。

さて、Aが負傷した箇所であるが、「足をケガして歩けない」とか、
「両腕が折れて何もできない」などのよくあるケースではない。
今回の負傷箇所は「目」である。しかも、視力を完全に奪われたと
車の運転もできなくなり、買い物にも行けないと訴えているのだ。そして、独身の一人暮らし。
これが本当なら、外出するわけがない。本人宅周辺は車がないと本当に不便な環境である。

目的地に到着したのは夕方5時半頃。
A宅に明かりはあるが、周囲は既に暗く、下見もままならない。
今日のところは、車を停められる監視場所を見繕い、明日に備えることにした。
思ったより張り込み易いかもしれないと、少々楽観的に思いながら宿泊先へ向かう。

≪調査1日目≫

翌朝、相方とホテルロビーで合流、車でA宅へ向かう。
互いに本日の現場の困難さを思い、無言である。

6時30分
A宅付近に到着する。昨晩見た周囲が暗い状況と、この明るい状況とでは印象が全く違う。
やっぱり張れないか車を止められると思った場所も、もって2時間くらいか

我々は、少し離れた場所に一旦車を止め、A宅の様子確認へ歩いていく。
A宅の近くへ行くためには、車1台がやっと通れる私道を入っていかなければならない。
早起きのおばあちゃんが二軒隣の家の庭で洗濯物を干している。
よそ者の自分に気が付かれないように行動する。
そこへ、白くて古いクラウンが出て来た。自分の横を通り過ぎる。
なんと、運転手はAだ。事前資料のAの写真そのままである。
一瞬、双子か兄弟?と思ったが、資料に兄弟はない。
慌てながらも不自然にならない様に気を使いながら車に戻り、クラウンの走り去った方向へ急ぐ。

まだ、6時39分ではないか?と思いながら条件反射でクラウンを追う。
距離は離されたが幸い一本道、いずれ追いつくだろうと
あれ?Aは、目が見えないとのことだったが!

安佐北市街に入ると他の車両も増え、Aのクラウンは雑踏の中を走り、喫茶店の駐車場に入っていく。

店内に入ると、Aは他の常連と会話をしていた。
しかも、脚を組んで朝刊を読んでいる。目が見えないという人物が新聞を読んでいる

その後、Aは他の常連に別れの挨拶をして店を出る。我々も撮影を済ませ、慌てず店を出る。
店を出ると、Aのクラウンは太田川沿いをのんびりとドライブした後、住宅街へ

知人宅と思われる戸建住宅を訪ねる。この時点でまだ朝の8時過ぎである。

尾行調査-2
尾行調査-2

10時
友人と思われる同年代の男性と出て来る。
二人はクラウンに乗り、Aの運転で市街地へ
そして、中心街のパチンコ店へ入店。
この遊興は昼食をはさんで5時間にも及び、何度かフィーバーしたAは、16時過ぎに帰宅。
友人はまだ打ち続けていた。
 

≪調査2日目≫

Aはほぼ同じ時間にクラウンで家を出て、昨日と同じ喫茶店、
同じパチンコ店と、どうやらある程度行動がパターン化している様子。

15時
Aがパチンコに耽っている最中、クライアントより当日の帰宅を以って調査終了の指示が出た。
初日の結果報告と今日の経過報告を聞かれて十分な結果が得られたとのご判断である。

そうこうしていると、Aがパチンコ店を出てきた。どうやら、スってしまったようである。

Aは愛車クラウンに乗り込み自宅へ向かう。
任務終了となるかと思いきや、自宅から1キロほど離れたタバコ屋の前に停車する。

我々は少し大胆にAのクラウンの少々後ろに車を停める。
直ぐ横には今は珍しくなってしまった公衆電話ボックス。
タバコを買ったAは火をつけながら、電話ボックスへ向かう。
受話器を取ると、プッシュボタンを何度も連打するも相手先が出ないのか、
諦めて電話ボックスをあとに。
16時に帰宅したことを見届けて、我々は広島の地を後にした。

※本記事は事実を基にしていますが、登場する人物・団体・名称等は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。守秘義務のため、依頼者や調査対象者が特定できないように、事件の詳細は設定を変更しています。

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